「シンドラーのリスト」スピルバーグの注目すべき野心作
この記事は産経新聞94年02月08日の夕刊に掲載されました。
1993年の終わりごろのアメリカ映画、モノクロ、3時間15分。監督が「E・T・」「ジョーズ」「未知との遭遇」「インディ・ジョーンズ」「カラーパープル」「ジュラシック・パーク」のスティーブン・スピルバーグ。白状するまでもなく私は彼の初期の「激突!」と「カラーパープル」と「E・T・」以外はソロバンが見えすいてウソ寒い。それかあらぬか今回は真正面からメーキャップを落とした素顔が登場した。過ちを謝るに遅きはない。この監督、この題名、わけもなくヒザを正して見たのだが、初めの一巻あたりから、これはアメリカの世界へのデモではないかと疑い始めた。
今までに世界がどれほどアウシュビッツの地獄を見てきたことか、映画はニュースとは別にこれを繰り返した。これをアメリカの当たり屋第一の監督が今さらに本気で描くその力作のリキに不気味さを感じたが、映画はニュース映画さながらに劇的なシナリオ臭を隠し、軍に商品を卸していた商人がその戦争でもうけた巨利を用いてナチに接近しガス室に放り込まれる寸前の1200人のユダヤ人の命を救う。リストとはその工場主オスカー・シンドラー(リーアム・ニーソン)の救助リスト。原作はトーマス・キニーリの小説だが実話という。脚色スティーブン・ザイリアン。
監督スピルバーグは46歳のユダヤ人。これを10年前から企画という。しかし今さらという時期に至っている。アメリカならこの企画すぐにでもパスするであろうのに今に至ったことで考え込みもする。製作もスピルバーグ。キャストはほとんど無名。「ガンジー」のベン・キングズレーだけを加え、すべてドイツ人、ポーランド人の顔つき集め、その人数その実景さながらの大掛かりの撮影(ヤヌス・カミンスキー)は素晴らしい。
これは今の若き人たちに改めて見せんと企画したか。しかし今ここに世界にわたり、きまじめに働くドイツ人たちは、いかにもつらかろう。もうこの年代にくれば作り方も変えねばなるまい。しかし一見は必要!
(映画評論家)