「サンドロット 僕らがいた夏」胸すく子供たちの五月の風
この記事は産経新聞94年01月18日の夕刊に掲載されました。
近ごろのさわやか映画。サンドロットとは原っぱ。九名の男の子の映画。これに大人が3人。実に近ごろさっぱりした映画。アメリカ人の好きな野球、それも少年の野球。「がんばれ!ベアーズ」という少女が主役の野球映画があったが、あれと違って勝ち負けで泣いたり喜んだりせぬ我ら仲間映画。むかし「アワー・ギャング」(1922年)という子供映画があった。あれもいたずらチームワーク。今度は小学生の上級。チームはがっちり。ここに一人のひ弱な男の子がきた。野球を知らぬ。タマ投げろといえばタマを走って持ってきた。バカと笑われる。この子の新しい父。どうやらママの二度目の夫らしい。この子はこの父になつかない。父もこの子をうるさがる。ところがこの子、野球のことで父にキャッチボールをせがむ。うるさがっていた父も次第にこの子がかわいくなる。
原っぱ野球でこの子、ボールを向こうの家の中に投げ入れ、取りに行かれぬので父が棚に飾っていたボールをとってくる。仲間たち、叫び声あげた。このボール、ベーブ・ルースのほんものサイン入り。びっくりついでにこのボールがまたあの向こうの家の庭に飛び込む。もうダメだ。あの庭にはこわい犬がいる。すでに10個以上ボールはその犬のそばに。これが取りに行けぬ。父の大切ボール、どうしよう…。
というわけで、笑って無邪気に見せながら、父と子の結び付き。こわい犬も勇気をもって近寄ればなついた。このストーリー、ありふれている。しかし、「チームワーク」「父と子」「勇気…やればできる」、これらをきらめかして、5月の青空さながらに明るくうれしく見せたよ。いかにもアメリカ映画だ。
監督・脚色デビッド・ミッキー・エバンス。子供と野球と犬それに父の愛。決まりきりながらさわやかだ。最後に飼い犬の主人、これが巧(うま)い。「フィールド・オブ・ドリームス」の黒人俳優ジェームズ・アール・ジョーンズだから巧いはずだ。十歳あまりの男の子がちょいと色気づいたり笑わせたり、父と子でほろりとさせたり。ひまあれば胸をすかしに見るがよろしかろう。1時間41分。
(映画評論家)