「クイズ・ショウ」
この記事は産経新聞94年12月27日の夕刊に掲載されました。
ロバート・レッドフォード(57)といえば、ポール・ニューマン共演「明日に向って撃て」(六九)があった。それに「スティング」(73)、または「ナチュラル」(84)など、その出演作はどれもすぐれ秀作だったが、監督としても「普通の人々」(80)、「リバー・ランズ・スルー・イット」(92)と名作を残している。
その彼がテレビ局の内幕をあばいた「クイズ・ショウ」(94)を監督。クイズの舞台裏をあばくことの事実よりも、ここに見るアメリカの堕落が底深い井戸の闇を覗くがごとく描かれて、きびしく小気味いい。クイズの裏がわの秘密をいまさらさらけだして驚かす幼稚さでなく、その内がわの仕掛けのあくどさがドラマを盛り上げてゆく。
クイズの花形が飽きられるまえに新人と入れ替える。その新旧のクイズの花形を、一方は下ろし、片方を作り上げてスタアへと盛り上げてゆく、この裏がわ。しかしこの企画この暴露、これはいまさらドラマとしては珍しくはないのだが、ここに登場の男優たちの見事さがこの映画をハイ・クラスに小気味よく持ち上げ、このレッドフォードの演出の鮮やかさに拍手した。
ショウのスタアから下ろされる男をジョン・タトゥーロが、彼の「バートン・フィンク」で見せた恐怖とは違ったスタアの焦りの恐怖を演じた。これに代わっての新人スタアに育てられんとする男にレイフ・ファインズ。そして新人スタアのその仕掛けの裏がわをつきとめんと調査する男にロブ・モロー。このロブ・モローが最高の演技と見たが、この映画の共演者ポール・スコフィールド、バリー・レビンソン、その他すべての男優共演者が実に見事な演技を競い、アメリカ映画ようやくにして第一級のレベルをここに示す、これは力作だ。
男の野心のこわさ、そのテレビの内側。風格から言って、これはかつての名作「イヴの総て」(50)の男性版とも思え、アメリカ映画ようやくにしてヴェトナムとアウシュヴィッツから離れた救いと心地よさを受けた。
(映画評論家)