「パルプ・フィクション」粋でスマートで講談ものの香り
この記事は産経新聞94年09月06日の夕刊に掲載されました。
ことしカンヌでグランプリをとる。原案・脚本・監督が「レザボア・ドッグス」のクエンティン・タランティーノ。この第一作は見事。ただし舞台劇を思わせた。
ところが、この第二作1994年作2時間35分は、まさに映画、まさに活動写真、まさにハワード・ホークス型、とそう思わせて、やっぱり三幕の芝居が用意されているのを面白く見破った。
チンピラ男女がコーヒー店に客となって、実はこの店の金を狙う相談。これがプロローグ。
白人と黒人のギャング2人組(ジョン・トラボルタとサミュエル・L・ジャクソン)がボスの命令で若いギャング団を虫けらのように殺し、親分のいるバアに来たところ、親分が旅に出るので妻の相手をしてくれとたのむ。そこでトラボルタは親分の妻をクラブに連れてゆき2人で踊る。しかし麻薬を女が吸いすぎ気を失う。あわててすごい注射を打った。
拳闘家ブルース・ウィリスは、親分から八百長試合をたのまれ金をもらったのに、相手を殴り殺し逃げて女と国外逃亡をはかる。ところが家に金時計を忘れていたので、すでに親分の手が回っているわが家に時計を取りにゆく。この拳闘家が時計を失った夢にうなされ跳び起きるところから始まり、その時計は祖父から父に譲られたもので、戦争中は父が捕虜収容所でケツの穴にかくして持ち帰った時計。というストーリーが見事な編集で映画を進行させる。
トラボルタと黒人この2人組がガン・プレーで仲間の一人を血だらけで死なせ、思い余って死体“掃除屋”をたのんで死体を引き取ってもらう。この掃除屋が「ピアノ・レッスン」のハーヴェイ・カイテル。3スタア三様見事に使いこなし、この3人の出が歌舞伎の三花競演の楽しさを見せる。
ことし31歳のタランティーノ監督が鮮やかに輝いた。トラボルタのダンス。ウィリスの汗だらけの坊主あたま。死体掃除屋カイテルのラストの見事な登場。3人を巧みに使ったこの脚本。
パルプ・フィクションとは読み捨て三文小説のこと。
(映画評論家)