「ピクニック」「ゲームの規則」
この記事は産経新聞94年09月20日の夕刊に掲載されました。
世界の映画史上に「大いなる幻影」(1937)、「どん底」(36)、「フレンチ・カンカン」(54)などで知られたジャン・ルノワール監督は、1894年9月15日パリに生まれ、1979年2月12日、ロサンゼルスのビバリー・ヒルズの自宅で84歳をもって死亡した。巨匠の生まれた年から、ことし9月15日は数えて100年。そこでこの監督の「ピクニック」(36)、「ゲームの規則」(39)の2作を映画館で記念上映する。
42歳の「ピクニック」は早春の花を思わせた。若き2人がピクニックの1日に知り合って、数年後再びその場所で再会。男はここに来ると君を思い出すといい、すでに他の男と結婚してしまった女は、私は毎晩思い出すと目に涙をにじませた。
「ゲームの規則」は、豪邸に集まった上流人種たちの狩猟の日のその日のスケッチに、彼ら彼女たちの恋のいざこざを描く。あたかも谷崎潤一郎の富豪小説を思わせ、このルノワール映画美術がすばらしい。
ルノワールといえば、印象画家オーギュストの二男ゆえ、その作品に香る美は豊かだ。イタリアの戯曲をヒントにしたアンナ・マニャーニの「黄金の馬車」(52)、19世紀パリに名物とうたわれた「フレンチ・カンカン」(54)、あるいはインドでの少女3人の淡い恋を描いた「河」(50)。33歳からルノワールは美術的映画を見せ、「捕えられた伍長」(62)まで、アメリカでの「スワンプ・ウォーター」(41)、「南部の人」(45)などなど、一作として劣る作を残すことはなかった。
1972年映画誌「サイド・アンド・サウンド」でのベスト4作は(1)「市民ケーン」(2)「ゲームの規則」(3)「戦艦ポチョムキン」(4)「81/2」。また「ピクニック」の助監督には、なんとジャック・ベッケル、イヴ・アレグレ、ルキノ・ヴィスコンティ。「ゲームの規則」のキャストには、マルセル・ダリオ、ローラン・トウタン、ガストン・モド、それにジャン・ルノワール自身も共演の楽しさ。
このルノワールをもっと大切に!
(映画評論家)