「フィラデルフィア」
この記事は産経新聞94年04月05日の夕刊に掲載されました。
エイズの裁判劇。監督が「羊たちの沈黙」(1991)でアカデミー監督賞をとったジョナサン・デミ。題名の「フィラデルフィア」とは、ギリシャ語の「兄弟愛」のこと。しかし、アメリカ映画つうには「フィラデルフィア・ストーリー」(44)を思わせる。エリートで上品で上流の富豪族。映画にもこれが感じ取れる。
エイズとホモの裁判劇。見る前からホモに理解しエイズをかばう。話は決まっている。いまエイズをかばわぬアメリカ映画はない。世界中でそう。だから、いかに深刻ぶっても映画は底を割る。それを2時間5分見せ通したのは、この脚本とこの俳優たちと監督の力量。注目は、かしこがりのアメリカがホモをどう画面の中にうかがわせるか。これが一番面白い。
エイズで若い男(トム・ハンクス)をクビにした。その第一級法律会社が、クビにされた若者から訴えられた。この彼に同情したのが、仲の良くなかった黒人弁護士(デンゼル・ワシントン)。「から騒ぎ」(93)にも出ていたし、「マルコムX」(92)の主演者だった俳優が、この映画の最高演技。目と唇と肩、それだけで名演を迫る。評判のトム・ハンクスもうまいが同情点。アメリカはエイズでクビ、しかも死の迫るかかる役がらには、決まってすごい同情を示す。
さて、映画はホモやゲイをいかにデリケートに描き理解してみせるか。
ホモを犯罪とさえ思う大会社の社長。この映画で、法律会社の社長(ジェーソン・ロバーツ)が法廷でやり込められハッとする一瞬の表情に、この社長もホモ青年を会社に雇っているらしきあわてかたを見せた。ジョアン・ウッドワードその他、共演者もすべてすぐれ、この映画にアメリカ映画久しぶりの品格を見せる。
ただし、ぎりぎりとねちねちとホモをかばいエイズに涙させるこのアメリカの遠慮ぶりが水臭い。主演のトム・ハンクスはことし38歳。「めぐり逢えたら」(93)がある。とにかくデンゼル・ワシントンがうまいよ。この映画、見る価値十分。
(映画評論家)