「ミセス・ダウト」
この記事は産経新聞94年03月08日の夕刊に掲載されました。
最後に思わず泣いたという人がいたが、映画ズレの私は、私がファンだと言っている愛するロビン・ウィリアムズ(41)の百面相を見て笑いころげて楽しんだ。日本におかめ、ひょっとこの踊りがあり、表を向けばかわいいおかめ、ぐるり後ろを向くとタコヅラの鼻のひん曲がったひょっとこ、これをロビンがひとりで演じるお遊び映画。
はじめにアニメの声優の彼が、画面に登場するアニメのいろんな声をマイクに吹き込む。ここにこの主役の声の色分け技術を見せて本題に進む。細君(サリー・フィールド)はこの夫のあまりのオトナコドモにうんざりしてついに離婚を申し立て、長男12歳、それに五歳の娘とこの2人の姉の計3人の子供を離婚裁判で母が引き取り、父は週に1回の土曜日だけしか子供たちに会えない。今に日本もそうなろう。
ところがこの父、あまりに子供たちに会いたいがため、ひとりとなった妻が新聞に家政婦募集の広告を出すや、巧みに変装し上品な家政婦にまんまと化けて、愛しきわが子を見守る。一方、妻たるこの子たちのママはお勤め仕事で外出。
後は言わぬが花よで、ご想像どおりロビンの早変わりコメディー。太って腹も出てきた男っぽい彼が見事巧みに上品オバアチャンになるその扮装(ふんそう)、その演技の早変わり。チャプリンの実兄のシドニーが「ベター・オール」(1925)で女に化け、怪奇俳優ロン・チャニーが「魔人」(25)で老女にふんしたように、ハリウッド第一の愛きょう者のロビンのオバアチャン振りもまた興行価値をずり上げるというプロデューサーの腹のうち。
監督が「ホーム・アローン」(1と2)で拍手を受けたクリス・コロンバス。ところで製作もロビン。となるとこのオカマ振り、一番演(や)りたかったのは彼らしい。だから映画、彼が出るとピチピチ面白い。
(映画評論家)