淀川長治の銀幕旅行
「マーヴェリック」たんまりとイノセント・ウエスタンを再現
この記事は産経新聞94年07月26日の夕刊に掲載されました。
今から33年前のテレビの「マーヴェリック」がこの今の1994年にいたり、二時間七分の改めての別物の大画面に登場とは面白い。

マーヴェリックとはギャンブラー、その名ブレット・マーヴェリック。昔のテレビではこれをジェームズ・ガーナーが演じたが、今や65歳。それで今度の映画に堂々の達者な助演。

改めて登場の主演者は38歳のメル・ギブソン、「顔のない天使」(93)で監督・主演のスタア。「マッドマックス」「リーサル・ウェポン」ともっぱらアクションもののスタア。共演がジョディ・フォスター。彼女「タクシー・ドライバー」(76)のときには14歳、この年で客を取る町の女、しかも昼間から客を呼び、しかも手にするはジャム・トースト。この彼女も今や32歳。賭博師マーヴェリックに対しこの女は女泥棒。やくざ野郎ときんちゃく切りの西部の渡り鳥というところ。

監督がリチャード・ドナー。この監督は、かつては「オーメン」(76)、「スーパーマン」(78)と派手に出たものの、近ごろはめっきり老いてパリッとしなかった。ところがこの監督、もともと映画に出てきた始まりの作品が「君は銃口/俺は引金」(68)、つまりアクション監督。「リーサル・ウェポン」で名声をつなぐが、あまりパッとしなかった。

この彼、久しぶりの懐かしのウエスタンを引き受け、「駅馬車」ムード、それに「ショウボート」ムード、これらアメリカ、その西部そのクラシックを画面に流し、あまつさえこの映画、テレビの主役のジェームズ・ガーナーを本格助演に、これにご愛きょうに、今や老けました「ララミー牧場」のジェスことロバート・フラーをもワン・カットちらり顔出しに見せるサービスぶり。無邪気に楽しく、インディアンさえここでは笑う。このいまものに生き返ったウエスタンに、改めて当時の無邪気さを知られるがよい。

西部オレゴンのロケも美しく、「未知との遭遇」のヴィル・ジグモンド撮影のこの映画のクライマックスの「駅馬車」そっくりの馬車の狂走、馬から馬へ狂走の中を乗り移るスリルの撮影もよろしく、これは、今のトウチャンも昔はこんなの楽しんだのかと嬉しがる作品でもありますぞ。  (映画評論家)



淀川長治

マーヴェリック

製作
リチャード・ドナー
ブルース・デイビー

監督
リチャード・ドナー

脚本
ウイリアム・ゴールドマン

撮影
ビルモス・ジグモンド

音楽
ランディ・ニューマン

出演
メル・ギブソン
ジョディ・フォスター
グラハム・グリーン
ジェームズ・コバーン
ジェームズ・ガーナー
アルフレッド・モリナ

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