「インタビュー・ウィズ・バンパイア」
この記事は産経新聞94年12月06日の夕刊に掲載されました。
アン・ライスのベスト・セラー小説映画化。小説の映画化となるとすべてその小説はベスト・セラーの宣伝にぬられて、今では驚きはしない。ところがこんどは「クライング・ゲーム」の監督、そのアイルランド人ニール・ジョーダンが手がけた作品だけに、この吸血鬼物語、異色で迫る。
吸血鬼映画はフランスの1915年作から今日までに数えきれぬ多くを産み、デンマークのドライエル監督の作(1931年)は映画史上に高く記録されている。そして吸血鬼役者も、ピーター・カッシング、舞台では今年亡くなったラウル・ジュリアなどあって、吸血鬼ドラマは日本の歌舞伎の見どころと演技のやりどころを持つ。
それゆえ、二枚目トム・クルーズが頬骨がつきでるほどやせこけてまでして主演した。これに「リバー・ランズ・スルー・イット」のブラッド・ピット共演。映画はこの男ふたりの異様なる関係。
ブラッドが妻子失い落ちこんでいるのを吸血鬼トムが見つめ、彼の咽喉をかみ切って血を吸い取り彼を吸血鬼におとしいれる。この映画の見ものはブラッドの咽喉に唇を近づけるトム、いまにもトムの唇がブラッドの咽喉ではなく唇を吸いとるかに見せるその瞬間。妻子を失った嘆きにさらに落ちこむこのブラッド吸血鬼に、トム吸血鬼はキルステイン・ダンストふんする少女の血を吸いとって彼女を仲間に入れる。少女は子供の顔で大人の女の吸血鬼となる。
かくて200年、現代のサンフランシスコでブラッド吸血鬼がインタビュアーに自分が吸血鬼のこと、その苦悩の道を語ってゆく。インタビュアーは「トゥルー・ロマンス」のクリスチャン・スレーター。
これは「吸血鬼」映画中最大異色。赤い血のしたたりのこわさ。同時に、爪が歯が人間の皮膚にぐいとさしこみ血が吹きだすなまなましさを、この映画は舌なめずりをして楽しんでいる。
2人の吸血鬼、ともに熱演。しかし、すべてはブラッド・ピットが悲しく、つらい苦痛の吸血鬼を演じ、この映画のすべてを食っちまった。
(映画評論家)