「愛と精霊の家」
この記事は産経新聞94年05月24日の夕刊に掲載されました。
1993年度デンマーク映画。ドイツとポルトガルとの合作とは、出演俳優の顔触れのことであろう。
監督のビレ・アウグスト(44)は「ペレ」(1987)があり、その映画の貧農の厳しさが芸術映画という名を思わせて、古きデンマーク映画をしのんだのだった。この国はドライヤー監督、また女優アスタ・ニールゼンをも生んだ一方、非常に早くハリウッド映画と競って日本にその作品を見せた国。そのノルジス映画のマークは、1915年ごろ早くも日本の映画館のスクリーンに出ていたし、この国は早くから連続活劇さえも作っていた。
それで、デンマーク映画といえば「むつかしい映画」「面白い映画」の二筋道を踏み、このビレ・アウグスト監督はまさしくその二筋道を身に染めているのであった。これも2時間19分の長編ながら、「ペレ」の厳しさを消し、ハリウッド型のベストセラー長編小説映画化の娯楽に走り、超能力と幽霊が出ることが今回の見ものか。
炭鉱夫(ジェレミー・アイアンズ)が金鉱を発見し富豪の人となり、権力を持ちお家大切と次第に人間性を失ってゆく。ところが妻(メリル・ストリープ)は自分の死の日さえも予言できる女。夫の姉(グレン・クローズ)とレズビアンになったため、夫はその姉を家から追い出し、やがて自分の娘が年ごろとなるや、娘の恋人が労働者たちを目覚めさすストライキのリーダーとなったのに怒り殺そうとする。
ストーリーは実にメロドラマだが、主役のジェレミー・アイアンズはじめ妻と姉の他に娘(ウィノナ・ライダー)、娘の祖父母(ヴァネッサ・レッドグレーヴとアーミン・ミューラー=スタール)、娘の恋人(アントニオ・バンデラス)と名優と新人を多彩に集め、「ペレ」とは違って今度はじっくりお楽しみとばかりの講談調。
幽霊は全身、そこに人がいるような姿で現れる。デンマーク映画の感じといえばこの幽霊と超能力。あとは名人芸といえる顔触れのお楽しみ。デンマーク映画なんぞ恐るるにたらん、まったくの娯楽大作。
(映画評論家)