「ザッツ・エンタテイメント3」
この記事は産経新聞94年11月01日の夕刊に掲載されました。
おおげさでなく神品である。ニジンスキィのこの手の実写が今あったならと痛感する。
数年まえ東京の歌舞伎座で七代目幸四郎、六代目菊五郎、十五代目羽左衛門の実写「勧進帳」を当時の舞台そのまま映写した。場内熱狂ファンで満員。映画なのに、見ているうちにオトワヤ、コオライヤなどのかけ声あがり、弁慶の花道引っ込みの六法踏むところ満席場内総立ちの拍手が盛り上がった。これは2日間の短期公開だったが、早くから入場券は売り切れた。
いま「ザッツ・エンタテイメント3」を見ると、つくづくあの日のことが思い出された。「1」はニューヨークで見た。客席は超満員、その客席が嬉しさでワン・シーンごとにざわめいた。7歳ぐらいの男の子に隣席の母が「あのひとが有名なエスター・ウィリアムズなのよ」などと顔を寄せて教えていた。
その(1)その(2)に堪能した今、その(3)の登場(1994年作1時間53分)。(1)1974、(2)1976、そして18年たった今(3)。こりゃ(1)(2)のフィルムのあまりだろうとにらんだ。ところが、リハーサル、本番、代役交替、ありとあらゆる楽屋裏までを紹介し、しかもつぎつぎ登場のミュージカル・シーン、そしてエスターの水中バレエ、1960年ハリウッド黄金時代そのまま。
ここに登場の登場者の至芸、そのシーンの豪華。始まってえんえんジーン・ケリーのダンス。私はアステアはどうしたと思ったそのころ、後半は見るもエレガントなアステアのタップのすべて。
オールド・ファンはこの数えきれぬミュージカル・シーンに胸を打つであろう。そして今、30歳あたりの人たちは、このハリウッド豪華にびっくりするであろう。
この過去の貴重フィルム、これをよくぞ集めた。そう思ったところ、これらに出演のミッキー・ルーニー、ジューン・アリスン、デビー・レイノルズその他あわせて九名の今の現在が登場し、ミッキー・ルーニーの太ったことに驚いたが、今日この現在をも加えてみた編集にも拍手だ。 このダンス、この歌、この豪華セット、これがハリウッド!
(映画評論家)