「ビバリー・ヒルビリーズ」じゃじゃ馬億万長者
この記事は産経新聞94年03月01日の夕刊に掲載されました。
アメリカ映画の「ジャイアンツ」をどじょうすくいの“あらえっさっさ”のスタイルで映画化したペネロープ・スフィーリス監督の1993年作、1時間35分のカラー。近ごろやたらと長時間映画の多いなかで、この一時間半はまことに気が休まるのだが、これを試写室で見ていると、隣の男が笑って笑ってそれも大声高くカンラカンラと笑うので画面のせりふが聞き取れない。しかしかかるカッコいいこと言ったって画面はアメリカ南部なまりの“そうだんべえ”式せりふゆえ聞いたところでわかるまい。
アメリカ南部アーカンソー(ケンタッキー州の隣と思いたまえ)にパパのママと甥(おい)が住む。パパはやもめ(ジム・バーニー)、パパのママ(クロリス・リーチマン)、パパの娘(エリカ・エレニアック)、そして甥(ディードリック・ベイダー)、これに共演がリリー・トムリン、ダブニー・コールマン、さらにチラリ出演にザザ・ガボール、バディ・イブセンを加えて、アメリカがアメリカを笑って喜んでけり倒してしまうドタバタ・コメディー。
田舎の一家は娘はクマとけんかの娘キンタロー、甥はこの一家のボロ自動車の運転手だが若さあふれ、バクダンが歩いている感じ。一家のお手洗いは家から表に歩いて5分先。このパパ、狩りに出て鉄砲撃ったら地面が揺れて四方八方から石油噴き出し、この一家たちまちにしてハリウッド最高の高級地帯に豪邸持った。これを見逃してはと銀行から花嫁希望からアレコレのこのコメディー、もはやせんじつくしたTVコメディー・シリーズそっくりながら、このキャストに手をたたき、この「ジャイアンツ」のヤスキブシ・スタイルに久しぶりでゲラゲラ笑って笑って、プーッと客席にいてオナラを落とされようとも怒るヤボはおりますまい。アメリカがここにアメリカを笑わせたのだ。それでOK。競演では銀行家の女秘書にふんしたリリー・トムリンがさすがに巧(うま)い。いっちょう見に行きたまえ!
(映画評論家)