「哀戀花火」美しい恋と見事な爆竹のショウ
この記事は産経新聞94年11月29日の夕刊に掲載されました。
1993年中国映画、カラー、1時間57分。フー・ピン監督。ニン・チン、ウー・カン主演。
ところで神戸生まれの私は少年時代、正月といえばドン・パンとパチパチとペコペコだった。ドン・パンとパチパチとは爆竹、ペコペコはガラス玉にガラスの吸いくちがつき、そのストローのごとき吸いくちを口にして吸ったり吐いたりするとガラス玉の底が特別の薄いガラスで上下に動いてペコンペコンと音を出す。正月は女の子の羽根つきの音と男の子のこのドン・パンとパチパチの音で新春を迎えた。
このパチパチとドン・パンの本格映画が中国からやってきた。年を重ねた誇り高い爆竹屋の娘(ニン・チン)は旧家のしきたりでひとり娘であることを隠し男装のまま青春を迎えさせられ、いまだ男として振る舞っていた。正月近く、正月の祝い絵を描く青年(ウー・カン)がこの町にやってきた。やがて青年は彼女の女としての美しさに魅せられ、2人は恋に落ちた。
というこの恋の描き方も恋情ふかく哀れ美しい。けれども、この作品の大いなる見どころは“爆竹”だ。爆竹ショウとしてこれだけの中国映画は初めてだ。からだじゅうに爆竹を巻いての爆竹拷問。さらに爆竹による対決。これは爆竹商人の娘を狙った男がこの娘と結婚をと、彼女の愛した画家と大きな広場で爆竹の対決をやるのである。
ここがこの映画のクライマックス。けれども、この映画のこの監督の巧みがうまい。今日このごろのガン・プレイの爆音を爆竹の爆音に代え、旧家のしきたりで男として育てられたひとり娘を愛した画家と男装の娘との恋にホモセクシュアルの匂いを加えた。
この監督、約10年の助監督をへて5年まえに第一作「川島芳子」を発表。そしてこれは彼の第三作。見るからにショウ精神あふれ、恋愛映画と娯楽映画の2つを掴んで観客を楽しませんとする映画本来の心がけを失うことなく、同時に中国映画で爆竹主役というこれが御馳走映画ということでもお勧めしたい。
(映画評論家)