「アダムス・ファミリー2」ぜいたくなる珍コメディー
この記事は産経新聞94年01月04日の夕刊に掲載されました。
前作を見なくともかまわない。筋がどうのこうのという映画じゃない。とにかくブロードウェイでフェリーニの「8 1/2」を「9」と題してフェリーニの伝記ミュージカル、その主役がラウル・ジュリア。映画では「蜘蛛女のキス」などに出ているが舞台の第一級スタア。これに共演が「グリフターズ」その他でアメリカ映画第一のソフィスティケーション女優とうたわれたアンジェリカ・ヒューストン。父は監督のジョン・ヒューストン、祖父は名優ウォルター・ヒューストン。そのせいか彼女が画面に出るだけで画面が引き締まった。
この2人がタンゴを踊る。これだけでこの映画、ちかごろの話題をさらったのに、さらにもう一人の共演がなんと「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で主役の一人のジジイをやったクリストファー・ロイド。これが主役の演じるゴメスの兄フェスタに扮(ふん)し、真ん丸頭でタマゴがジジイになったかのごとき太っちょで、これがジョーン・キューザック扮するセクシイ女に夢中となって彼女とベッドインまでのあきれたすさまじさ。相手はこのジジイの金が目当てというわけだが、とにかくこのクリストファーが全力投球、なんともおかしく面白い。この映画、この3人のまさに隠し芸的をもってお楽しみは百パーセントなのだが、このファミリーあわせて7人、それに一家のペットの人間の手首の「手」も加えて、グロテスクでゴースト的で、まともな人間は一人もおらぬこの家族のヒッチャカメッチャカが、第一級舞台劇の第一級コメディーのオール出演者競演のすばらしさだ。
監督が前作同様バリー・ソネンフェルド。この監督、近作「バラ色の選択」でも男を上げたが、さてこの粋(いき)な裏芸的出演者の名演を、ただのコメディーと見くびるなかれ! ギャグそれも洒落(しゃれ)のめしたコメディーを、爆笑もって楽しむ人多ければ、この映画の上映館はさぞや楽しかろう。見逃し給(たま)うな!
(映画評論家)