「ウェディング・バンケット」
この記事は産経新聞93年11月16日の夕刊に掲載されました。
封切りには少し早いが覚えてほしい。同性愛映画。ホモとかゲイの違いは知らぬとしても、近ごろようやくホモの味方が増えてきた。これは「結婚披露宴」という題名。今年のベルリン映画祭でグランプリ受賞。1時間49分。台湾・アメリカ合作。監督・脚本・製作アン・リー。39歳の台湾生まれ。24歳よりアメリカ。この脚本と製作にアメリカ人が協力。
見ていてスカッとする。ホモの男同士同せい。どちらもスポーツマン・タイプ。台湾からこのホモの片方の両親が息子の嫁をと考えてここニューヨークを訪れる。それからの騒動はありきたり。けれどもこの映画、日本の「きらきらひかる」とか「おこげ」と違って陰がない。
親は息子がカムフラージュで一人のアルバイト娘を結婚相手のつもりとごまかすのを本気にする。父は喜んで本格披露宴を設ける。そこでひと騒ぎが起こり、結局、女1人と男2人の3人家族が生まれる無理な締めくくり。けれども同性愛をカラリと描き、この映画、見どころは父(スーフン・ロン)が息子をどうもクサイと思いつつ息子を信用するあたりのこの父と子が素晴らしい。ホモ馴(な)れの連中は今日び、こんなことで男2人があわてるかと思い、ホモのことをまだも罪と思う連中はこの父の“心配”に同情するだろう。
見どころは台湾とニューヨーク、双方のプロデューサーがケロリと、かかる苦笑のホモの話を大っぴらに撮る時代が来たということで、この親子騒動の冬の風もやがて春の日を迎えるに違いないと見せるムード。男2人(ウインストン・チャオとミッチェル・リヒテンシュタイン)がカラッと男らしく、いっさい“陰”がない。もうホモもゲイも大手を振って接吻する時代だ。(映画評論家)