「硝子の塔」のぞきのサスペンス・スリラー
この記事は産経新聞93年10月12日の夕刊に掲載されました。
シャロン・ストーン(35)も「氷の微笑」以来ヌード・セクシーで売り出し、今度の映画もそこをねらうが、脚本(ジョー・エスターハス)はその逆手をとって男(ウィリアム・ボールドウィン)がヌード・セクシーを演じて見せる。原作が「ローズマリーの赤ちゃん」「デストラップ」のアイラ・レヴィンというので目をつけたが、映画自体はエロティック・スリラー。
一口に申せば若き富豪が自らマンションを建て、独身のこの男はマンション各部屋に隠しテレビ・モニターを据え付け、その各部屋の情事を一人わが部屋で、あたかもセックス展のごとく十数台のテレビいっせいに映写して楽しむ変質者。
映画は初めに望遠レンズで、パーラーにきていた女が遠く向かいのビルの全裸の情事を見てしまうところから始まって、ヒチコックの「裏窓」のヒントをもって映画は映画館内の見物人たちに主役2人の情事の盗み見を楽します趣向。
といって2人のベッドシーンを見せるのでなく、ここがこの監督フィリップ・ノイスの見せどころで、シャロンが相手を誘惑するそのきわどさをなんと向かい合ったレストランのテーブルで見せ、さらに男のすべてを知った彼女が男と別れの一瞬、この男、しだいにあやしき誘惑のきわどさで、怒ったはずの女を引き戻す。つまりは全裸のその前を真っ正面に見せだした。
アメリカ映画はパラマウントのメエ・ウエストの、あるいはMGMのジーン・ハーローでセクシーを売ったが、かかるあからさまのセクシー表現は初めてで、シャロン・ストーンは危険である。
一方この映画ではトニー(アンソニー)・パーキンスをねらう役どころで、しかも“男”を見せるこの新人ウィリアム・ボールドウィンはこれで人気を呼ぶであろう。
監督はオーストラリア人で「ラスト・ジゴロ」がある。なるほどと思う。濡れた映画がお得意の監督だ。この主役二2に「プラトーン」のトム・ベレンジャーがミステリー作家にふんして共演。1993年、アメリカ映画、1時間48分。原題名「SLIVER」とは細々に刻んだ一片。
(映画評論家)