「秘密の花園」映画の"美術"となった少女小説
この記事は産経新聞93年09月28日の夕刊に掲載されました。
いまさらバーネットというなかれ、今をさる七十年前、メリー・ピックフォードの「小公女」「小公子」で笑って泣いて心をほっこりさせたあのバーネットの晩年作の少女小説「秘密の花園」が、今にいたって映画化された。総指揮がコッポラと知ってびっくりすることはない。この映画クラシック狂は暗黒街からコットンクラブから吸血鬼とたどり、今バーネットに目をつけた。さらに「イントレランス」と手をのばすか。
さて監督はポーランドの婦人監督アニエスカ・ホーランド、男のユダヤ人の割礼人生物語「僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ、ヨーロッパ」(81年)を監督している。実力十分だし、男の割礼に目をつけるところに女の監督のなまぐささが隠れていた。ところが今回は真っ向からピンクの絹リボン。富豪の少女が孤児となり、母の親せきの伯爵豪邸に引き取られ、ここで秘密の花園物語となるのだが、1910年というころに書かれた小説を今に、映画に見せるということに感心した。
今年の夏はハワイを止めてアタミですよ、この母に10歳の男の子がフーンと不足顔。かかる世の中、町じゅう、国じゅう、すべてがドライ化したこの今に、この映画のクラシックは砂漠のオアシス、枯れ木に水。
少女(ケイト・メイバリー)が引き取られた伯父の富豪ご主人はやもめ、しかも病。その息子(ヘイドン・プラウズ)も生まれてすぐ母を失い、病人扱いの生きながら死人。これを少女と庭番の少年(アンドリュー・ノット)が助け、勇気づけ、伯父が妻の死以来、閉め切った庭の奥のその庭園を屋敷の男の子に見せ、自然の美しさ、小鳥のかわいさをも教える。やがて海外から戻ってきた伯父をも感泣させるこの人情、このシーン数々の美しさ。この愛の少女小説はここに映画の“美術”となった。学校も家庭もサラリーマンも、重役もしばしゴルフの手を止め、このやさしい映画を見る必要あり、だ。
ステュアート・クレイブの美術に注目。1時間42分。イギリスのマギー・スミスが厳しい家政婦長で好演を見せるが、主役の少女はじめ2少年もうまい。アメリカ映画。
(映画評論家)