「オルランド」見給え!この人間解剖の物語!
この記事は産経新聞93年08月24日の夕刊に掲載されました。
おそらくケンケンゴーゴーうるさき解釈が施されるであろうが、要するに美少年が長じるにあたり女となったセクシー話。なんのむつかしきことあろうのご興味映画。けれども見ているうちにこの映画の女性監督サリー・ポッターの術中に落ちる。その術とは高貴とのぞきの金と泥のと申したいが、つまるところはニュー・ファッション。フランスの香水に飽きた連中がイギリスの男の香水に興味を移して現代ぜいたく感覚。
イギリスにはオスカー・ワイルドあり、その他もろもろの巧みな性の美術を描いた作家あるも、ヴァージニア・ウルフ、この手の哲学には手を出さぬとき、女性のサリー・ポッター、これぞ私の今年のデザインとばかりに、エリザベス女王の命により美少年オルランドを登場させた。「汝(なんじ)この美を失う勿(なか)れ」とばかりに女王が命じた16世紀末から、400歳の今日まで生きたという不老と、女王の言「不老たもてば巨財つかわす」その物欲の、二つをもってオルランド老けることなく、我が身、男なるもいつしか眠りさめれば女と化し、しかもアメリカの富豪に見そめられ渡米して子を生むというこの嘘八百が、原作者ウルフのおそろしき筆をもて人間欲望の華麗なるステンドグラスを見せる。
女性はオルランドを我が身の神としたその本の出版から、今も「オルランド」に今日的光をきらめかす。男が女となったこと、セックスが果たされて子をもうけたこと、これだけで興味いまに生きる。現に銀座セゾン劇場で先日まで上演の坂東玉三郎の「エリザベス」、この女王、実は男なりしよの愛の秘密のクライマックス、場内静まりかえり万席の華麗ご婦人たちしばし沈黙の異様なる静けさも、「オルランド」香水、映画はさらに男性女性その性あやしくも美しく、今流行のこのスタイル、見て損どころか美の開眼とこそ申したい。主演ティルダ・スウィントン(女優)はじめ衣装・美術すべてにイギリス古典時代再来のおもむきを知る。
1992年作、イギリス・ロシア・イタリア・フランス・オランダ合作のイギリス映画。カラー、1時間34分。
(映画評論家)