「オリヴィエ オリヴィエ」悲しく美しくこわい見事な演出
この記事は産経新聞93年10月05日の夕刊に掲載されました。
1992年のアグニエシュカ・ホランド監督(45)の作品。この前が「僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ」(90年)、そして今年が「秘密の花園」。90年度作はユダヤ青年が乳児にして受けた割礼が彼を苦しめる男の悲喜劇。冬の日の雨と春の日の花を見せたが、「秘密の花園」となるや絹リボンで飾った祖母の愛読書さながらの古さびた豪華邸の秘密を少女が手さぐる蝶と花と小鳥と青葉の、これはもはや女性の手で描かぬかぎりかかるやさしさ美しさは出ないであろう西洋クラシック。
この2作を手がけたこの監督がここに見せたオリジナル脚本そして監督の「オリヴィエ オリヴィエ」は、母溺愛の幼児の失踪から六年、その母の前にわが息子オリヴィエが現れた。このオリヴィエの六年間の行方をさぐるところがこの監督独特の、物語的というか小説を読みふけるごとき巧みを見せて、しかもオリヴィエがゲイボーイになっていて、夜な夜なゲイのたまり場の駅をねぐらに男の客をとっていたことがわかってくる。なぜこの子がかかる少年になったかが次第にその真相をあらわにしてくるあたり、まことに見事な脚本と監督ぶり。さらにラスト近く、思いもかけぬことがわかる手法に現代感覚のすごさと同時に古き小説、古き活動写真のころの1920年ごろの肌ざわりを見せて、この女性監督がペンをとれば見事なる婦人小説を書き上げるであろうと、この監督の映画の画面の進み方に“語り”の巧みを味わった。
夫と妻、この2人の間の娘と弟、この弟が幼年に行方不明となり、母は狂い悲しみ、父は妻と娘ともどもアフリカへ行くことを勧めるが、母はオリヴィエをいとおしみ、この土地から一歩も離れぬこの母(ブリジット・ルアン)、娘(マリナ・ゴロヴィーヌ)、そして6年ぶりに姿を見せるオリヴィエをグレゴワール・コラン(一八)が、女性監督の細かさをもって好演し、母、娘、息子、この三人、それから六年後のこの3人、姉に見とれるこの弟、悲しく美しく、こわくなる、この監督の演出の手口。
(映画評論家)