「ナイト・アンド・ザ・シティ」
この記事は産経新聞93年02月16日の朝刊に掲載されました。
男の映画。マンハッタンもの。拳闘と酒場。一匹狼の貧乏弁護士(ロバート・デ・ニーロ)が金に渇え、ボクサーをけしかけ金を儲けようとする、そのあくどい世渡りが見もの。金で女に惚れると見せて、それが本物となる。
女(ジェシカ・ラング)は酒場の店の亭主持ち。ハンフリー・ボガートと黒澤明の『酔いどれ天使』が匂う。その匂いは“映画”。この映画、しかもラスト・タイトルにジュールズ・ダッシンに捧ぐと出やがった。そうと思った、これぞダッシンの『街の野獣』(1950年)のまさしくリメイク。ダッシンは『裸の町』(48年)。このときすでにフレンチ・コネクション・アクションを見せ、やがて赤狩りでアメリカから逃げ、イタリアで『日曜はダメよ』(60年)をぶっ放した監督。
さて、『ナイト・アンド・ザ・シティ』はダッシンほど垢抜けはしない。これはデ・ニーロが重い。しかしジェシカ・ラング、この『郵便配達は二度ベルを鳴らす』以来のアメリカン・セクシィがいい。酒場の亭主の女をたぶらかし、ボクサーを手玉に取ったこのマンハッタンの谷間の一匹狼、殴り殺されるか、そう思わせるこのハードボイルド。けれどその名さえ今は野暮めくこのニューヨーク気っ風。これぞダッシンを思いつつ楽しまれるがよい。
監督アーウィン・ウィンクラー。この監督、アメリカの恥も恥、大恥の赤狩りをコテンパンにやっつけた『真実の瞬間』(91年)の監督。そしてこれは彼の監督第二作。と申すのは、この男、『ひとりぼっちの青春』(69年)、それに『ロッキー』シリーズ、さらにデ・ニーロの『レイジング・ブル』(79年)のプロデューサー。かかる映画好きがいるところが頼もしい。けれども、あのダッシンのマンハッタンの切れ味はやっぱりねェ、ちょいと出せねェよ。
共演ジャック・ウォーデン、イーライ・ウォーラック。撮影は『羊たちの沈黙』(91年)のタク・フジモト。脚色が『シー・オブ・ラブ』(89年)のリチャード・プライス。1992年。1時間45分、アメリカ映画。(映画評論家)