「ジュラシック・パーク」
この記事は産経新聞93年07月06日の夕刊に掲載されました。
動物博物館で見上げる巨竜の骨を見てびっくり。そのころを想像せよとスピルバーグ、これを映画に。子供だましの映画もあるが、大人だましのびっくり映画もある。見ているとディズニーが思われて、このスピルの映画もいかにもアメリカだ。フランスならもっとファンタシィ。イギリスならもっと学問的。昔のドイツならもっと古代美術という思いがするが、アメリカは無邪気楽しく、これこそが映画の威力と思わせる。
富豪(リチャード・アッテンボロー)が古生物学者(サム・ニール)や女仲間(ローラ・ダーン)などとともに蚊の化石の、その蚊が巨竜の血を吸っていたことを確かめ、その血から巨竜の卵を再生してついに巨竜の島を作らんとする、というようなストーリーはどうでもよろしい。要は巨竜の作り、その動き、その面白さ、見事さだ。撮影(ディーン・カンディ)は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」一部、二部、三部の撮影者。
というわけでこれはスピル10年前からの企画。六種の恐竜、そのなかには肉食と菜食がある。ほんとかね。それらの巨竜の動き、その巨体の重さ、その目、その、巨体のくせに小さな手、それがさながら生きて目前にいる自然さ。とくに卵から生まれてくる赤いえい児、その卵、なかからぶくぶく動き、殻を破り、はい出るそのトリック。見上げる恐怖の巨大さもすごいが、それよりも若き巨竜が群れをなして走る、ここが凄い。映画史の何ページかにはこれは永久に残る注目作だ。
活動写真誕生まもなく画家ウィンザーが線画アニメの「恐竜ガウティ」(1909年)を作り、巨竜は映画のあこがれ。やがて「ロスト・ワールド」(25年)もちろんサイレント。人間と巨竜の冒険映画。映画ファンのスピルバーグ、ついに、ここにその夢果たす。「激突!」25歳、「ジョーズ」28歳、「E.T.」35歳。これは46歳。まさに天才、まさに活動写真の申し子。デミル、ディズニー、コッポラ、スピル。アメリカは映画を広める興行師と同時に映画学校の先生たちの国。1993年作、カラー、2時間7分。
(映画評論家)