「ザ・シークレット・サービス」
この記事は産経新聞93年08月17日の夕刊に掲載されました。
きざなマカロニ・ウエスタン型の「許されざる者」よりはずっと面白い。監督が「Uボート」のウォルフガング・ペーターゼンゆえか、映画は黒っぽく、サスペンスが本物に盛り上がる。
要するに殺し屋ミッチ(ジョン・マルコビッチ)がアメリカ大統領を狙い、大統領危機一髪のところでシークレット・サービスのホリガン(クリント・イーストウッド)に追われ、この追う者と追われる者のアクションが暗殺サスペンスに次ぐ見どころとなる。
見事ホリガンが殺人魔ミッチを消すまでの2時間3分は誠に面白く、飽きるすき間を見せぬ。ただし殺(や)られるのは殺し屋のマルコビッチだが、“演技”の点で殺されたのはお気の毒だがクリントだった。
音楽がエンニオ・モリコーネで、聞かせどころよろしく、しかもクリントはウエスタン服脱ぎ捨ててスタート。あたかもポール・ニューマン、プラス、ジョン・ウェイン型なるも、この脚本(ジェフ・マグワイヤー)はオリジナル、それもこの映画の監督の親友とあるからには、監督の言うがままに筆を走らせたか、見ているとカッコいいことばっかり。
30年前のケネディ暗殺を今回は新大統領に置き換えてのドキュメント・ニュース・スタイルながら、映画は面白さ天下一品みたいでお楽しみ映画型。殺し屋が変質的で役人を電話で脅す。まことにありふれ型で目をそらすべきところ、「シェルタリング・スカイ」「二十日鼠と人間」のマルコビッチがあんまり巧(うま)いので、わかりきったこの陳腐暗殺映画を見事救った。
この厚かましい脚本、屋上から敵と役人が2回ぶら下がり、1回目はどちらで2回目はどちらだったかは見てのお楽しみ、その瞬間スリルを知らすまい。しかしそこがちとどこかのまねくさい。今さらこんな手と鼻じろむ。
けれども感心はこのアメリカ映画のスター作り。一人の脚本に加え、さらに三人がかりで娯楽百パーセント、クリントのきざさを何ともカッコよく見せましたよ。1993年。
(映画評論家)