「二十才の微熱」作品の「若さ」に今日を感じる
この記事は産経新聞93年07月13日の夕刊に掲載されました。
ことし31歳の新人、橋口亮輔の脚本・監督作品。青年というよりも少年と呼びたい若者たちの、男相手の売春クラブ映画。ファースト・シーンはヒゲの40男が主役の19歳の大学生の顔にキスするところのクローズ・アップから始まる。あとは見たって仕方のないような幼稚さ丸出しの映画。
この幼稚さの青年が、映画監督と自分でそう思っている今のこの31歳が、かかる題材に取り組んでいるところに、今日の渋谷とか六本木とかそのような若者の青臭い匂いを感じ、馬鹿らしく見ながらも、映画自身の「若さ」に今日を感じる映画。
これが浅草とか大阪ならかくも幼稚ではあるまい若者が、ここではさながら幼稚園の園児に等しい。しかしこれは珍しいことでなく、じっさいこれが二十歳かと知ってあきれる若者の幼稚さにはもう馴(な)れきっているのだが、それを描くのかと思っていると、ありきたりのウラジャクラジャした子供みたいな若者たちの憂うつを勝手にカッコいいタイトルで描いた最低映画。
柳町監督が「十九歳の地図」で描いたときを思い出す。あの19歳が今ではこのようになったのかと怒ったのも、今度の映画では客が2人の若者を相手にしてベッドで遊ぶシーンまでこの監督は脚本に入れてあるのに、その中年ともとても思えない男(実は監督自身出演)が恥ずかしげに演じ、自分のパジャマのすそが膝までまくれるのを気にしてたびたび素知らぬふりで直すのがおかしいから。
出てくるのが子供に近い若者であっても、監督はもっと大人の目でその若者たちを描かなくっちゃ。
けれどもこの監督、思い切ってこの若者たちを画面に出したことでほめてあげたい。ルイ・マルやらヴィスコンティの爪のアカもお持ちじゃないが、このタブーを突き破った企画は認めたい。
こんな世界を描くならもっと勉強してもらいたい。ファースト・シーンを見たとき、これは今年のベスト・ワンかとさえ見つめたものを。出演者たちは言うことなし。1時間54分。1993年作。
(映画評論家)