「逃亡者」2時間10分飽きさせぬスリル
この記事は産経新聞93年08月31日の夕刊に掲載されました。
日本でもTBSで約30年前テレビ放送された「逃亡者」の映画化。テレビではデヴィッド・ジャンセンが主役の医師のキンブルを演じたので古いファンはさぞ懐かしかろう。
今度は「スター・ウォーズ」「インディ・ジョーンズ」で名を高めたハリソン・フォードが主演。この俳優いまやアクションスターでその名を知られているが、私は「刑事ジョン・ブック/目撃者」(85年)のどちらかといえば古めかしく、おっとりとした男臭さを買う。それで今回の役が、医師で妻殺しの犯人にされ、逃亡という、いわゆるギャング仕立ての逃亡映画でないところに、彼のどこかもっさりタイプが良き効果を出し、この逃亡のスリルに実感を出させた。
護送車と列車の激突、あるいは何十メートルもの滝を飛び降り激流にのみこまれるシーンなども用意して逃亡スリル満点ながら、この主役、逃亡中ヒゲぼうぼうは若い彼のファンにはちとお気の毒と思った矢先、逃亡中のヒヤヒヤのなかでヒゲを剃ったのであきれたが安心もした。
かようにこの監督(アンドリュー・デイヴィス)は観客サーヴィスに心を使い、ウィリスごとき鉄骨男と違い、もっさり型のハリソン・フォードにこの逃亡の激しきスリルを演じさせたところにプロデューサー(アーノルド・コペルソン)の商才を知る。
この逃亡者を追う連邦保安官ジェラード(トミー・リー・ジョーンズ)、この男優それにこの監督も「沈黙の戦艦」(92年)で成功、いまや脂乗り切りのとき、それでハリソンと一対一の対決の幸運をも掴(つか)んだか。
共演にジュリアン・ムーアその他いるも、映画はひたすらハリソンとジョーンズこの2人にしぼり、逃亡スリル一直線。脚本にいささか変化の不足を感じるものの、逃亡スリルこの二時間十分は飽きさせなかった。今年51歳のハリソン・フォード今のうちと、このプロデューサー、この映画の第2、第3の企画を立てているかも。
(映画評論家)