「PNDC/エル・パトレイロ」
この記事は産経新聞93年06月29日の夕刊に掲載されました。
面白い、巧(うま)い、いいよ。失礼ながら、かく感じた。失礼とはまこと失礼にも、たかがメキシコ・ポリスの二流ものかとたかをくくった。話はありきたり。警察学校を出た男、胸を張り、英雄ポリスを夢見たところ、賄賂に、署内の不正に、ついにポリスのバッジをわが手で捨てる。こりゃクリント・イーストウッドで見飽きたよ、ヘンリー・フォンダが目に浮かんじまったよ…と、あざ笑う顔が、映画始まって20分、25分、30分でピタリ止まった。
演出はネチャリクチャリ。映画はまるで小津映画をまねたか長丁場。クローズアップなし。このウエスタンならぬウエスタン・スタイル・ドラマに、逆にいつの間にか目がすわる。
この主人公、結婚もした。それなのに商売女ともチョイ深くなる。女房が金がいるというので交通違反者から賄賂をとった。というこの映画、マジのポリスものを皮肉って若いファンを狙ったかに見えもするが、そうではない。メキシコ北の地方色、そのほとんどは赤土の丘と、走る車が巻き上げる砂じん。ウエスタン・ムードいっぱい。しかも画面の主人公はカッコ悪い。ところがある事件で思わず、まさに思わず、テキと正面衝突。ブッ放した。テキは死ぬ。その死体を見つめる。自分が嫌になる。これもありきたり。けれど一度ある事件で片足やられているこの主人公、いつも片足ひきずっている。そのポリスが相手にブッ放し、相手が死んだのを見つめて情けなくなるあたり、この映画、そのシーン、そのシーンがスローテンポに画面を落とし、ぴたり情感を出す。
アレックス・コックス監督、この映画野心。「シド・アンド・ナンシー」の監督だった。1時間43分。カラー。アメリカ、メキシコ、それに日本の協力。主演者ロベルト・ソサ。こういうのは絶対見逃すんだよ。だから見てちょいとトクをするといい。
日本の協力、これは製作費なのであろう。ネギシ・クニアキの名があった。「赤い薔薇ソースの伝説」といい、メキシコ映画、底に“芸術”を匂わす。PNDCとはナショナル・ハイウェイ・パトロールのこと。1991年作。
(映画評論家)