「クリフハンガー」
この記事は産経新聞93年11月09日の夕刊に掲載されました。
1993年アメリカ映画。クリフハンガーとは絶体絶命危機一髪のこと。昔の大連続活劇は2巻ごとにクリフハンガーだった。今度のこの主役はシルベスター・スタローン。しゃべると声がヌカヅケみたいに粘る俳優。「ロッキー」で一躍有名はご存じどおり。このスタアその後いろんな役をやった。1900年初めのころのニューヨークの労働者のストライキを描く映画の、時代色の古めかしいアメリカ人の顔がぴったりだったが、今度は初手からビックリ。このファースト・シーンを見逃したらダメだよ。
場所は超高山、洒落(しゃれ)かあらぬかその山どうやらロッキー・マウンテン。純白の白雪。ここでアクション展開、じゃないんだスリル、サスペンス、ハラハラが超高山で演じられる。岩の間にしがみつく。手も足も滑る滑る、ついには顔で滑る。という絶体絶命が続いて観客はキャメラならぬキャラメルなめてる口の動きも止まっちまうよ。
話は悪党が飛行機から落としたトランク。これが超高山のどっかに落っこっちまった。そのトランク、いやカバンだな、その中に札がぎっしり。山の捜索隊に中身知らさず、カバンのこれこれ捜してと頼んだのが、この映画の捜索隊活躍の始まり。
見せ場にキャメラ十名の見せるジャンプ、橋の爆発、ロープのぶら下がり。氷の張った穴ボコの水の中、はまった男が中からたたけど押せど、水の中の男の手が氷を砕けない。という危機一髪百パーセントを見せて見せてこの映画、見たあとグッタリ。「K2」とか「生きてこそ」なんぞのマジじゃない。高所恐怖症は見るなかれ。
監督は「ダイ・ハード2」のレニー・ハーリン(34)。悪漢役はジョン・リスゴー。キャメラがヘリから岩壁すれすれを走る。ロープで谷から谷へビューン。見飽きた山映画も「ロッキー」のシルベスター君必死、これが面白く、札束が白雪に散るのもシカゴじゃなく山の頂上だから洒落になる。かかるブラッド・マネー(血塗られた金)はたいがい大都会の地下室というところを白雪の山頂で。ここがいい。
(映画評論家)