「青春デンデケデケデケ」大林監督バンザイ!
この記事は産経新聞92年10月13日の朝刊に掲載されました。
少年群像映画は甘ったれると鼻持ちならぬ。この監督にはややその心配ありだ。ところがこれはスパッとやったよ。甘えは消し飛び記録タッチ。だからキャメラと編集が力を入れた。たるみを避けた。なるほど編集はこの映画の大林宣彦監督自身だったのだ。2時間15分。ガキのガンガン・ロックではたまったもんじゃないと用心。ところがその昔のチャールズ・レイの少年群像映画『懐しの泉』だ。少年少年少年の青春を意識して会話にスピード。この子供映画、会話がスロー・テンポでさらに甘ったるくなったらおしまいだ。
この監督、尾道わが故郷に凝っていたが、今度はどういうわけか四国香川。けれどやっぱり同じだったよ。川あり橋あり自転車走る。この土地柄にしがみつき、それに日本、それにふるさとノスタルジィ、それにキャメラ美を求めるのは木下恵介、続いて山田洋次、つまりは日本を“ふるさと”と愛するセンチメント監督。絵にすると古き童話画家の川上四郎、その寺あり山あり学校ありの感じ。
さて映画は1960年。この時代を狙ったのもノスタルジィ。ロック、ついにバンド成功の少年たち一人ひとりの個性がよろしく、特に寺の息子が面白い。巧いとは言うまい。面白いのだ。監督、ドキュメンタリィ・タイプで少年たちに早口でしゃべらせ、特にこの寺の子が早口で聞きとりにくいのが気になったが、バイクで ころも姿でお参りにゆくシーンが面白く楽しい。ロック発表会でヤンヤの大騒ぎの中、老婆が手を叩いてのロックびいきは、ちょいとやりすぎ。
しかし監督の個性があふれた映画だ。思えば昔の松竹の清水宏監督がよく撮っていた少年映画を思い出し、フェリーニの『青春群像』までをも思い出した。要するに本当に映画好きなんだな。大林監督バンザイ!(映画評論家)