淀川長治の銀幕旅行
「ポリス・ストーリー3」サイレント映画のすべてのアクションが
この記事は産経新聞92年12月01日の朝刊に掲載されました。
ほこりだらけとは、土によごれ灰をかぶり石炭の仕事場からトロッコで狂ったごとく走る、そのトロッコに吹きつける風の“ほこり”のカッコ悪さのことだけでなく、もはやその名も古くなったジャッキー・チェンの胸を張った“誇り”でもあったこの『ポリス・ストーリー3』のスタイル。狙いは例によりオール・アクション、そのスピーディな展開はサイレント映画連続大活劇ノスタルジィ。

今やアクション映画はありとあらゆる科学兵器を持ち出して、ミイラか人か、人か人造か、そのキラキラ光る超モダン感覚アクションの中、ジャッキー・チェンは 肉体そのものを骨も砕けと唸らせる。見れば見るほどバスター・キートンであり、見れば見るほどサイレント映画の正月興行ニコニコ大会のラリー・シモンの超スピード・アクションなのだ。

今や一流ホテルのフランス料理時代なのに、ジャッキー・チェンのわんたん屋は、手製の手あかのしみた味で食べていただくよと胸張る男気。ハイカラ、モダン、その中でこれほどクラシックにしがみつくスタアはもういない。そこがジャッキーの頑固さだ。

見ると今回は、細身(ほそみ)のまさに谷間のスズランさながらの女優ミシェール・キングに主役の半分以上を持たせ任せている。この女優が警察署長さながらに何十人もの部下たちを号令一下きたえあげる。そのさまにアホウらしいよとクスクス笑ったそのことが、実は巧みな罠に引っ掛かったというユーモアとビックリ。ミシェールなるちっちゃな子供みたいな女優の、とんでもない中国仕込みのパンピンピュータンの全身火と燃える肉体の花火。この映画『ポリス・ストーリー3』の話題は、このミシェール・キング。しばしジャッキー、その姿を消すばかり。しかしここがジャッキーの見事なる計算だ。

スタンリー・トン監督、1時間30分、もちろんカラー。サイレント映画のすべてのアクションをさらったこの1時間30分、アッと見るまにパタンパタンと終わるのだ。(映画評論家)



淀川長治

ポリス・ストーリー3

監督
スタンリー・トン

脚本
フィレー・マー
リー・ウェイイー

出演
ジャッキー・チェン
ミシェール・キング
マギー・チャン
ケン・ツァン
ユン・クー
トン・ピョウ

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