「二十日鼠と人間」スタインベック名作の再映画化
この記事は産経新聞92年12月22日の朝刊に掲載されました。
見逃されそうな地味な、しかし実に名作だ。1939年にルイス・マイルストォン監督が一度これを映画化した。そのころのジョン・スタインベックのベスト・セラー。ただちに舞台劇にもなってロング・ランを記録した。なぜ当たったか。
中身は地味だ。人のいい、しかし頭の悪い大男レニーと、賢いジョージ。2人は幼友達。ジョージはレニーの善良さを愛し愚かさをかばった。レニーは子犬を抱いたり二十日鼠を手でさわって喜ぶあまり、絞め殺してしまうような男。そんなおとなしい大男(ジョン・マルコヴィッチ)が思わず出稼ぎ先の農場の女(シェリリン・フェン)を殺してしまったことから、ジョージがレニーを連れて逃げる。このラスト、あっと目を伏せる怖いシーンを見せる。
ジョージを演じるゲイリー・シニーズは、この映画の製作、監督でもある。しばしば舞台でこのジョージを演じ、この映画化に執念を燃やしていたのに違いない。さすがに巧い。また悲しい愚者を演じたジョン・マルコヴィッチは、あの『シェルタリング・スカイ』で病死する夫を演じていたが、今度も実に巧い。
これはアメリカの老舗MGMの映画。アメリカがSFやベトナムに狂っている中で、かかる地味な映画を製作したことにアメリカ映画のよみがえりを感じた。「怒りの葡萄」「エデンの東」のスタインベックが、ここにも1930年代の不況にあえぐ西部の男を描き、しかもアメリカ大陸その歴史の浅いアメリカのアメリカ人の無能善良の悲しさをここに見せた。スマートなアメリカ人、見るも哀れな無教養の野人のアメリカ人、アメリカの観客は呼吸を止めて自分たちの祖先の姿を見つめたことであろう。しかもこの男二人の愛情、この悲しい美しさが胸を打つ。これは1992年度作。しっとりと映画その作品に浸りたい人が見るがよい。(映画評論家)