「1942 コロンブス」おふたりでじっくりと。
この記事は産経新聞92年11月03日の朝刊に掲載されました。
1991年フランス映画。カラー。1時間54分。エリック・ロメール監督および脚本。女はコックのシャルルとできて女の子を生む。女の名はフェリシー(シャルロット・ヴェリー)。その後、男からは何の返事もないし、男が去ったアメリカの住所もわからぬので、女は手紙の出しようもない。
5年がたった。人のいい美容院の主人が妻と別れ、あんたと結婚したいと女に申し込んできた。別のところに店を持って一緒にやろうという人のいい中年男(ミシェル・ヴォレッティ)。結婚して、妻を新しく作った美容院の看板女にしようとした。好きだし、彼女が美しいからなのに、彼女は商売のための結婚と決め込んで、この男から去った。
次は、かねてから深く知り合っていて、今も彼女を本心から愛しているロイック(エルヴェ・フュリク)にわけを話したところ、運命は自分と結び付くためだと彼女との結婚を力説した。そしてある晩、2人で芝居を見に行った。シェークスピアの「冬物語」。彼女、これを見ておいおい泣き出した。
そしてついにある日、バスに我が娘を連れて乗り込んだところ、その席の真ん前に自分の最初の男、今も忘れ得ぬ男、そして今ここに連れている女の子の父たる彼、すなわちシャルル(フレデリック・ヴァン・デン・ドリーシュ)が乗っていた。そんな、馬鹿らしい、と言うなかれ。事実は小説よりもミラクルだと、この映画はここで開き直っている。
映画の出来は100点満点で60点。けれども男2人、その1人が商人、いま1人が文学と人生を取り違えた男。映画はこの不幸な2人の演技に力を込め、特にこの勝手な女の生き方をとにかくしっかりと演じたシャルロット・ヴェリーの努力ぶりをこの作品に盛り込み得たところが見どころ。
男はえてしてこんなもの、女はえてしてこんなものの物語。実は、女が男に渡した自分の住所のつづりが間違っていたとは、この脚本、最高の不出来。原名は「四季の物語・第二号」。日本題名、冬あらば春あり……か。(映画評論家)