「ダンシング・ヒーロー」楽しく浮かれて足拍子
この記事は産経新聞92年11月24日の朝刊に掲載されました。
これぞおまちかねの正月映画。ちと紹介早けれどただいま御案内。ダンスとは、踊ること、大拍手。ダンスとは、腰を振ること、大拍手。ダンスとは、美しきもの、大々拍手。ダンスとは、セクシィなり、熱狂的大拍手。
というわけで、この映画、タテから見てもヨコから見てもダンス、ダンス、ダンス。しかれども『ウエスト・サイド物語』の洗練ムードにほど遠く、“アステア対ジンジャー”の妙味にはとても及ばず、ひたすら見るはダンス、ダンス、ダンス。このムード、すでに名作『サタデー・ナイト・フィーバー』に舌なめずりしたあとゆえ、だいぶソンをしたるも、それであろうとて落胆無用。ただもうダンスを見ておればよろしく、その妙技、到底ジーン・ケリーの『雨に唄えば』の雨中ダンスに及ぶシーンはなくとも、ディスコ・ファンまたはダンス・リサイタルに飛び出すダンス狂には待ちかねたダンス六面鏡。
ストーリーは? やぼなことを聞くでない。ダンスをこそ見せる映画にストーリーは邪魔じゃない。見るはダンス、ダンス、ダンス。ボレロにルムバにタンゴにさまざまタップに、加えてフラメンコその闘牛スタイルとなると、“いかすよなあ!”と身震いの幼児性青少年も多かろう。昔は、と申せば、老人は何かにつけて昔昔とぬかすけど今のムードを掴めまい、とは何たる暴言。トーキー初期の『ルムバ』『ボレロ』、美術バレエとなると『赤い靴』と、そのカンゲキのダンシング・シーンは、今日のこの映画のごとき田舎臭きものでない。
しかれども、若き今日現代のダンス・ファンは、かくもこの映画に盛られたるダンス雑学に、この映画を二度三度と楽しまれるであろう。ああ悲しきこのダンス・センチメントの幼稚性。バズ・ラーマン監督、ポール・マーキュリオ(29)主演。1992年作。オーストラリア映画、カラー、1時間35分。やっぱり、けれど、おすすめ作品よ。
(映画評論家)