「1942 コロンブス」あらためて本気になって見てしまう魅力
この記事は産経新聞92年10月06日の朝刊に掲載されました。
コロンブスといえばもう見た気がするほど、誰もに知られすぎた伝記、その映画化。それをリドリー・スコット監督は驚く美しさで、あらためて本気になって見てしまう魅力を、しかも古典美術画調をつらぬいて見せきった。この映画のキャメラ(エイドリアン・ビドゥル)と音楽(ヴァンゲリス)が素晴らしい。
地球が丸いと信じた男が幼い息子にそれを海辺で教える場面、長い航海、海また海、コロンブス一行が島を見、陸に足を下ろした瞬間、コロンブスの足がジャブンと水の中で底についたその「陸」の感触。そして初めて見た島民、相手も初めて見る白人、互いに殺意を見せた。そのときコロンブスが笑顔を相手に見せ、そこで相手も笑顔になった。ここは『E・T・』だ。この壮大な豪華版2時間40分ほどの大作のうち、ここが最高だ。スコット監督のかかる大作に見る感覚のこまやかさが胸を打つ。大きな釣り鐘を島の門を造って吊るしたところの脚本があやふやだ。おそらく長すぎてカットのためでもあったのか。ジェラール・ドパルデューのコロンブスが巧い。シガニー・ウィーバーの女王もこの映画をけがしはしなかった。
映画というものは思いもかけぬときに思いもかけぬ勉強をさせてくれる。コロンブス航海五百年。地球が丸いことを発見した男。知っていても知識だけだったものを、映画というものはかくも目に見せてあらためて教えた。しかも全篇を美術画調で見せきった。これは誰もが見るといい。まさしく教育映画だが、まさしく映画のお楽しみだ。楽しみというよりもっと深い品格だ。
この監督、もともとイギリス人だ。『エイリアン』にしてもずっと以前の『デュエリスト』にしても、ただの娯楽、ただの講談調にはなってはいない。どこかにドキュメンタリー映画の きまじめさがあるのだ。これはまさしく今年一番の収穫だ。(映画評論家)