月組「暁のローマ」「レ・ビジュー・ブリアン」宝塚大劇場公演評
轟悠、圧倒的な存在感
6月8日(木) 大阪夕刊 by 平松澄子
宝塚大劇場の月組公演は、専科スターの
轟悠が特別出演した「暁のローマ」(木村信司脚本・演出)と「レ・ビジュー・ブリアン」(酒井澄夫作・演出)の2本立て。両作品とも轟が圧倒的な存在感を見せている。
「暁…」は、「ブルータス、お前もか!」のセリフが有名なシェークスピア原作の「ジュリアス・シーザー」をもとに、ポップな音楽(甲斐正人)と現代感覚のファッション(有村淳)で見せる作品。冒頭の緞帳前で、
霧矢大夢と
北翔海莉が“道化役”となり、時代背景を大阪弁の掛け合いで説明して物語が始まる。
ローマの絶対的な指導者となった将軍カエサル(=シーザー、轟)だったが、独裁を懸念する政治家たちは、共和制を理想とするブルータス(
瀬奈じゅん)をリーダーに立ててカエサルを暗殺する。しかし、副将アントニウス(霧矢)がカエサルの遺言状を読み上げる巧みな演説で、ローマ市民たちの心情は一転。追われる身になったブルータスは戦いに敗れ、自害する。
君主制か民主制かの選択、言葉にまどわされて右往左往する一般市民たちの姿など、この歴史的テロの政治劇には、現代にまで通じる変わらぬ人間の根幹がかいま見えて、ドキッとさせられる。常に時代を見据えて挑戦する木村作品に内包されたテーマは鋭く、深い。
ただ、セリフを歌で表現する歌詞が繰り返しが多く、状況説明や人間関係が言葉足らずになり単調。円形劇場だけの装置も、場所や時間的経過がわかりづらい。ブルータスが尊敬していたカエサルを、なぜ殺さねばならなかったのか。肝心のそこに至るまでのドラマが希薄になり説得性に欠けた。
「レ・ビジュー…」は宝石の持つきらめきをイメージした、懐かしい香りのするレビュー。轟と瀬奈がそっくりの宝石泥棒で共演する「ビッグダイヤモンド」のシーンが秀逸で、スターの魅力で見せるレビューならではの醍醐味を感じた。19日まで。