素材になる。すべてをゆだねるとおっしゃいましたが、そのあたりは通常のコンサートと異なる心構えなのですか?
コンサートの場合、曲順、バンド編成、全体の構成などをどうするかとを考えます。それと合間のおしゃべり。近況報告など自分のことを織り交ぜることで、曲がより観客にしみこむような内容を考える、お客様に「よし、あしたからがんばろう」という気持ちをもっていただいたり、リフレッシュしていただいたり、あるいは、とりとめもない空気を共有していただくのでもよい。それを今回は、ほかの方にゆだねる。
なるほど。そうすると、今回の場合、たとえば選曲などはどうなりそうなのですか?
基本的には物語に合った曲を選ぶことになります。通常のコンサートは、新曲の発売があって、その販売促進のために全国を回ります。基本的にはそうです。でも、今回は新曲はないわけです。それで舞台のストーリーに合った曲を選ぶのですが、むしろ、ぜいたくな感じですよね。昔の曲もいい感じで入ってくる予定です。
物語とおっしゃいましたが、そもそもシアトリカルコンサートというのは、どのようなものをイメージすればよいのでしょうか? 歌のあるお芝居ですか?
ミュージカルでも、リアルプレイでもなく、やっぱり基本はライブだとは思うのですが、せりふはある予定ですし、踊りもあります。ある物語があって、それに従って歌い、時にはせりふをいい、踊る。「谷村有美」として舞台に立つのですが、それは谷村有美であって谷村有美ではない。シアトルカルコンサートという言い方は、非常にいいなと思っています。ショーじゃなく、お芝居じゃないコンサート。そこがおもしろそう。ふつうのコンサートだったら、おしゃべりて伝えるメッセージを、せりふを通して伝える。そこに歌と音楽があることで、谷村有美の世界をより大きな形で体験していただけるのではないかと思っています。
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ご自身もダンスをするのですか? 舞台で踊る経験はこれまでに…?
私はクラシックバレエをやっていましたから、そんなに違和感はありません。もちろん、本物のダンサーのような動きを求められる立場ではありませんが。むしろダンサーのように踊ってしまうと、逆にそれは違うと指摘されました。このあたりのさじ加減がプロのすごさだなという感じですね。
構成・演出の小池竹見は、劇団「双数姉妹」を主宰する一方、ゴスペラーズの公演の構成・演出も担当していますね。
私の場合、仕事相手については、2、3言言葉を交わしたとき「この人はすごくいいな」と思えたら大丈夫なんです。わずかな言葉の中に共通項を見いだせたら「あ、大丈夫だ」と感じる。恋愛みたいにものですね。小池さんはまさにそう。台本もおもしろいし、私の予想以上のものが次々に出てくる。
従来にない新しい谷村有美に出会える。そんな公演になりそうですね。
“コクーンでやる谷村有美”というブランドを確立できたらいいなと思っています。コクーンが私の新たなホームグランドになったと。先輩の中島みゆきさんがコクーンで「夜会」と題した一連の公演をされていて、すばらしいなと思いながらいつも拝見しています。「夜会」は、同じシンガーソングライターとして誇りに思える公演です。だから、よし、私のは「昼会」と名づけよう。そんな気合いで取り組んでいます。自分のアーティストとしての幅が、今、広がっていると思っています。たとえば演奏のうえでAとBの選択肢があったとき、Cを提示されたら、それをおもしろがることができる。今回はCからEぐらいのものを与えられて、それを楽しみたい。私自身をびっくりさせてほしい。よりよい表現者になれるように精進したいと思っています。
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