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訃報

指揮者、ユーリ・シモノフがモスクワ・フィルハーモニー交響楽団を率いて、公演のために来日した。共演は、ピアニストのフジ子・ヘミング。

フジ子といえば、CD「奇跡のカンパネラ」(平成11年)が50万枚も売れ、その半生はドラマ化されるなど、クラシックファンにとどまらない人気を持つ。 そのフジ子が、ある取材のインタビューで「これまででいちばんうれしかったことは?」との質問に、「シモノフに絶賛されたこと」と答えたほどの指揮者だ。

14日のサントリーホール(東京都港区)を皮切りに、横浜、名古屋、大阪、神戸の5都市で開かれる2人の公演は完売の勢いだ。シモノフに、フジ子の魅力。そして、指揮者という音楽家について聞いた。

◆ ◇ ◇
「フジ子は自分の音に根拠を持っている」
−−日本では、クラシックが親しみやすくなった理由のひとつにフジ子さんの影響もあるほどです

誰かを喜ばせることはすばらしいことですし、うれしく思います。世界がこのような不幸で、暴力にまみれる時代に、よいことは時を逃さず、成し遂げることが大切です。

−−フジ子のどこが魅力ですか

彼女は楽器との接し方を知っている。つまり、古い世代で、その時代の教育を受けている。楽器は手で演奏されるが、彼女は心を通して音楽にしている。知的な演奏ともいえるね。

−−あなたとの相性がよいということですか

もちろん、それもある。彼女は自分に厳しく、演奏の時でも(納得のいかない音、演奏に対して)顔をしかめたりしているよ。それは、本当に曲を理解しているということだ。自分の演奏についての良しあしをいつも判断している。

自分のなかでの演奏の根拠が非常に明快だ。舞台に立つことだけが勝利だと考える演奏家の多いなか、彼女はいつも、自身の演奏に挑む。


−−指揮をするとき、何を一番大切にしていますか

指揮者のスコア(総譜)には、100人以上にもなる楽員たちすべての楽譜が書かれてあります。彼らの奏でる音は、1滴、1滴の水のしずくで、私はそれを1本の川の流れにしているのです。

指揮者とは、それぞれの音楽家の繊細なものを取り出す作業のようなものです。指揮者の動きは、そのような印象があるでしょ?

心を育てた「昔の教育」
−−指揮者が曲を自分の色に染めているわけではないのですね

私は、作曲家の創意を尊重します。まず、作曲家を解釈し、感情を理解することが指揮者のなすべきことです。そして、演奏家の内面を呼び起こしたうえで、自分の個性がようやく発揮できるのです。

もっとも、優れた指揮者とは、この演奏家との心の交歓を楽しむものなのです。

−−得意な曲、作曲家はありますか

どの作品とはいえません。どんな曲でも指揮者は、作曲家、演奏家の心に入り込むことができます。

ただ、好きな作曲家はいますよ。ベートーベンです。私はドイツの作曲家が好きですね。シューベルト、シューマン、ワーグナー。ドイツ以外では、ブルックナー(オーストリア)やベルリオールズ(フランス)、ベルディ(イタリア)。ロシアの音楽家は言うまでもなく、好きです。


−−ロシアの音楽界は、旧ソ連時代と比べて変化していますか

ロシアだけのことではありませんが、音楽教育が変わってしまった。より正確に、より早くといった技術ばかりを磨こうとする学生が多い。心の訓練が不足しています。楽器店に行けば、ボタンひとつでピアノが勝手に演奏を始める。メロディーに慣れ親しむという意味ではいいですが。

だから、これからの音楽家というのは、指揮者にしろ、ピアニスト、バイオリニスト、歌手であっても心を表現できる才能、自然の感情を奏でることのできる能力が重要になるはずです。

芸術家とは、2本の線を一度に踏みしめていかなければならない。1本は、技能。そして、もう1本は心や知恵。どちらも日々、はぐくむべきものなのです。

◇ ◆ ◇
シモノフ氏はインタビューのなかで「昔の教育」「私の時代」を強調した。旧ソ連崩壊以降、「帝政ロシアの至宝」ともいえるこの国の音楽は低迷期を迎えている。それまで、楽団は国家のひ護の下、一流の音楽家は特権階級として身分も保障されていた。そのため、芸術家の情熱はもちろん、芸術そのものの精度は高かったといえるのかもしれない。ロシアの音楽事情に詳しい関係者によると、市場経済への移行とともに、食べていくために“ロシアブランド”をうたった楽団が乱立し、国外へ“切り売り”されているのも事実だという。ただ、圧倒的な得票率でプーチン大統領が今月、再選したことからも分かるように、ロシアという国が旧体制に戻りたいわけではない。シモノフ氏の言葉は、政治や経済の混迷に翻弄(ほんろう)される現在のロシアの音楽界への警鐘に聞こえる 。
(by Ryoko KUBO/久保亮子)

◇ ◇ ◆
ユーリ・シモノフ(Yuri SIMONOV)
モスクワ・フィルハーモニー音響楽団音楽監督/主席指揮者
1941年旧ソ連・サラトフ生まれ。レニングラード音楽院でユーリ・クラマロフに師事。68年、ローマのサンタ・チェチーリア・アカデミー第4回指揮者コンクールで、ロシア人として初めて優勝。69年、第2回オールユニオン指揮者コンクールで優勝。同年、ボリショイ劇場で指揮者としてデビューを飾り、翌年、楽団史上最少年の主席指揮者として、ボリショイ劇場管弦楽団に迎えられる。79年、ボリショイ劇場室内管弦楽団を創設。88年には、モスクワ・フィルハーモニー音響楽団音楽監督、ならびに主席指揮者に就任。同年、ロシア人民芸術家の称号を授与される。


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