利用者の減少に悩むカラオケ業界がテコ入れ策に懸命だ。冷凍食品が主流だった食事のメニューを本格調理したものに変えたり、マイクを使ったゲームや遠距離デュエットが楽しめる機械も登場した。「歌う場所」として娯楽の主役を担ってきたカラオケ店が「歌も歌える遊び場」へと変貌(へんぼう)しつつある。
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SMNのカラオケ機に導入された「声であそぶゲーム」。「はじめる」「やめる」など、操作はすべてマイクを通して行う |
苦手な人も
東京都目黒区のカラオケ店「カラオケ屋中目黒店」に、客の滞在時間が延び続けている部屋がある。
「商社の社長が調査書調査」「旅客機100機客各100人」…。カラオケボックスの中なのに、若者たちはマイク片手に画面に映し出された早口言葉を読み上げ、ポイントを競い合う。
音声認識機能を利用した「声であそぶゲーム」。セガ・ミュージック・ネットワークス(SMN)のカラオケ機「CANDOONE(カンドーネ)」に7月から導入され、同店では19部屋のうち2部屋に設置されている。「歌のレパートリーに困ったときに助かるし、大人数でも一緒に盛り上がれる」と都内のアルバイト男性(24)。遠距離の部屋とデュエットやテレビ電話ができる機能も人気があり、通常の部屋と比べて時間を延長する客が多いという。
開発に携わったSMNの脇康平・企画開発プロデューサーは「歌が苦手な人でも楽しめる遊びを提案したかった。カラオケボックスは今後、『歌も歌えるし、遊ぶこともできる空間』として利用されるようになるはずだ」と話す。
個室貸し出し
業界最大手の第一興商は、カラオケ店と系列飲食店を同じビル内に入居させる複合型店舗を増やしている。「カラオケ店の食事というと冷凍食品というイメージが根強い。本格的な食事メニューをそろえることで差別化を図りたかった」と、同社秘書・広報課。居酒屋やダイニングバーで調理した料理をカラオケボックス内から注文できるのが売りだ。複合型店舗は現在15店。昨年11月にオープンした複合型店「ビッグエコー上野広小路店」では、カラオケボックスの部屋数を73から51に減らしたものの、飲食店との相乗効果で売り上げは増えているという。
ファミリーや中高年層を取り込む動きも活発化している。
シダックス・コミュニティーのカラオケ店では、歌を歌わない人のために通常料金の2割引で部屋を貸し出すサービスが人気を集めている。主婦の井戸端会議や仕事の打ち合わせなど使い方はさまざま。ここ1、2年で利用者の数が2割近く増加しており、「団塊の世代を中心に、仲間と一緒に楽器を練習する人が多い」(同社広報)という。
強力ライバル
全国カラオケ事業者協会の集計によると、カラオケの利用者数は平成6年の5890万人をピークに減少し、昨年は4700万人。カラオケボックスの部屋数も、昨年は13万3000室と、ピーク時の8割にまで減った。
カラオケ離れの要因として、博報堂生活総合研究所の吉川昌孝・上席研究員はミリオンセラーを記録するような楽曲の減少や娯楽ニーズの多様化を挙げる。さらに、音楽を楽しむ方法にも変化がみられるという。
吉川さんは「学校や会社の休み時間に携帯電話の『着うた』を流して一緒に歌う人たちが出てきている。そうした中で、カラオケ店に足を運んでもらうためには、設備や料理などを充実させて差別化を図っていく必要があるだろう」と指摘している。
テレビ番組と連動
気軽に歌うことの魅力をストレートに訴えかけることで、業界に活力を取り戻そうとする動きもある。
第一興商が日本テレビ系列のテレビ番組「歌スタ!!」と連動して行っているオーディション企画だ。参加したい人は、第一興商のカラオケ端末「DAMステーション」で自分の写真と録音した歌を送信し、審査を受ける。審査に通ると、テレビ局のスタジオでプロの審査員を前に歌うチャンスが与えられ、メジャーデビューの道が開ける。
オーディション参加料は1回450円。カラオケ店から気軽に応募できることが若者に受けて、昨年7月の開始以来、月に5000件のエントリーを記録するほどの人気となっている。