人が産声をあげて、初めて口にする母乳。赤ちゃんのための栄養が詰まった“命の源”だが、最近、その成分に注目が集まっている。母乳に含まれているラクトフェリンやアラキドン酸に、発がん予防や歯周病への効果、アンチエイジング作用などの“効能”があることが近年相次いで明らかになっているのだ。それら成分に着目した新商品が続々と発売され、研究開発にも熱が入るなど、今、「母乳パワー」が見直されている。
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「母乳の成分」を含む飲料や食品の数々(撮影・森浩) |
ポリープ小さく
母乳に多く含まれていて、今最も注目を集めているのは、ラクトフェリンだ。いわば「鉄分を含むタンパク質」で、日本医科大学の可世木(かせき)久幸教授(診療科・産科)は「特に初乳(出産した直後の3日間に出る母乳)に多く含まれています」と解説する。
そんなラクトフェリンに最近、新たな“効能”が見つかった。国立がんセンター(東京)の研究によると、ラクトフェリン3グラムを1年間にわたって摂取した人は、大腸ポリープの大きさが0・2ミリ程度小さくなることが分かった。大腸ポリープは成長することで、大腸がんに進展するとされているが、ポリープの段階で小さくすることで、“がん化”を抑える。今週末に開かれる日本癌(がん)学会学術総会で、同センターがん予防・検診研究センターの神津隆弘教授らのグループが発表する予定だ。
また“解毒作用”も分かってきている。
ライオンと東京医科歯科大学などの研究チームは今年4月、ラクトフェリンに歯周病菌の出す毒素のリポポリサッカライド(LPS)を解毒し、炎症の進行を抑制する力があることを突き止めた。歯周病菌は殺菌しても、菌が出したLPSが残存した場合、症状が進行してしまうケースもある。同社広報部の小八木敏行さんは「歯周病の悪化を防ぐためには、さらなる(毒素の)ケアが必要になる場合もある」と“解毒”の重要性を説明する。
ラクトフェリンがLPSの解毒作用を持つことが分かったのは世界で初めてといい、同社は、研究を応用した新商品の開発を進めている。
10歳若返り
母乳に含まれ、乳児の健やかな成長と発育に欠かせない栄養素であるアラキドン酸(ARA)。「脳内にある重要な栄養素として知られていますが、加齢とともに減少することも分かってきています」と、ARAを配合したサプリメント「アラビタ」を販売するサントリーでは解説する。
同社と東海大学などの研究の結果、60歳以上の健常高年者がARAを摂取することにより、認知能力(情報処理能力、集中力)、脳機能が5〜10歳若返ることが判明している。また物忘れを訴える60歳以上の高年者がARAとDHA(ドコサヘキサエン酸)を含有する油脂を摂取することで、記憶力と集中力が改善することも分かっている。
「アラビタ」は、通信販売のみの展開ながら、好調な売れ行きを示しているという。
髪の毛にも
ヘアカラーメーカー「ホーユー」(愛知)の研究によると、母乳に含まれる「タウリン」には、弱った毛髪内部のタンパクを引き締め、より健康な状態に戻す働きがあることが分かっている。さらに母乳に含まれるアルギニンやイノシトールには、髪の毛に潤いを与える効果もあり、資生堂では、シャンプーやリンスへ応用したブランド「チカラ」を今月投入した。
日本医科大の可世木さんは「母乳は、赤ちゃんをはぐくむ栄養が詰まっていることからわかるように、(外部の菌からの)感染防御に始まり、命を支える成分が非常に多く含まれている」と、“母乳の力”を説明。今後は「(母乳に含まれる)細胞の成長を助ける上皮成長因子(EGF)など、まだまだ研究すべき点は多い」と、さらなる可能性に言及している。