サンダル履きの警察官「両さん」が大暴れする週刊少年ジャンプ(集英社)の人気漫画「こち亀」こと「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が、連載30周年を迎えた。連載漫画は、読者アンケートで人気がなければ即打ち切りという厳しい世界。その中で30年も人気を保ち続けているのは驚異的だ。アイデアが尽きるということはなかったのか。作者の秋本治さん(53)に“長寿の秘訣(ひけつ)”を聞いた。
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「こち亀」は秋元さんのデビュー作。「当時は休んだらいくらでも代わりはいるので、必死になって描きました」=東京都葛飾区の仕事場(撮影・堀晃和) |
「こち亀」の連載が始まったのは昭和51年9月。驚いたことに、ハードな毎週の掲載にあって、これまで一度も連載を休んだことがない。読者の熱い支持はもちろん、何よりも作者自身がネタに困ろうが、病気になろうが、描き続けないと、この偉業は達成できない。
「“貯金”をするのがコツです」と秋山さん。月に4週あれば、5週分を描きためる。そうすれば1週休める。奇策があるわけではなく、心の余裕を保つことが秘訣だという。
これは、連載当初に担当編集者から受けたアドバイス。「ぼくは描くのが遅くて、時間がないとパニックになるんですよ」と笑う。以来、予定表を作って締め切りを前倒しで設定し、仕上げることにした。
「原稿と休みを“貯金”しておけば、万一倒れても大丈夫だし、作品も冷静に見られる。空いた時間にネタ探しの取材にも行けるでしょ」
そうはいっても、30年も続けていればネタに困るときがあるのでは−。「正月などの年中行事を軸に、下町の商店街の様子や、お巡りさんの生活などを入れると1年は埋まる。逆にアイデアを削るのが大変」だそうだ。
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漫画の舞台のJR亀有駅北口には今年2月両さんの銅像が設置された(撮影・堀晃和) |
基本は下町を舞台にしたギャグ漫画だが、原則1話完結でアクションや恋愛などさまざまなジャンルを盛り込んでいる。例えば、弓道に凝ったときは、日本文化の良さを作品の中で伝えたことも。パソコンや携帯電話が登場すればいち早くネタにするなど常に最新事情を反映させてきた。時代設定も、郷愁を誘う昭和30年代から現代まで。世の中のあらゆる事象がネタとなる。読み切り形式なので、毎回違う話が読者を飽きさせない。
両さんのアイデアは、当時、映画「ダーティハリー」や、テレビドラマ「太陽にほえろ!」など刑事物がはやっていたことがきっかけ。交番のお巡りさんで、競馬もするし酒も飲む、本能のままに生きる警察官はそれまで誰も描いておらず、目立つと思ったのだそうだ。
連載10年、20年の節目では、続けていいのかと、自問したことも。だが、描いているうちに面白い素材が見つかり、まだまだやりたいと思うようになったという。
さて今回は−。「新たな展開が思いつく間は、描かせていただきたい」。「こち亀」ファンには何ともうれしい答えが返ってきた。