新車を購入する際には、税金や保険料などの諸費用がかかる。この負担を少しでも軽減させる方法があるのをご存じだろうか。昨年12月から、首都圏などで始まった自動車保有関係手続きの「ワンストップサービス」(OSS)。手続きを電子申請で一括して行うことにより、販売店によっては代行手数料が安くなるケースがある。ところが、手続きに必要な住民基本台帳カードの普及低迷や、宣伝不足もあって、ほとんど利用されていないのが実情だ。
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パソコン上で手続きができるOSSを使った新車登録は、「安さ」「早さ」「個人情報の保護」が売り物だ=東京都目黒区のトヨタ東京カローラ渋谷店(撮影・頼永博朗) |
住基カードを利用
会社員の池田英恵さん(26)は8月、東京都内の販売店で念願の新車を購入した。排気量1500ccの乗用車で、車両本体価格と消費税のほか、自動車税や自賠責保険料などの諸費用に約20万円がかかった。しかし、池田さんの場合、諸費用のうち車庫証明と検査・登録にかかわる販売店の代行手数料が5900円安くなった。
仕組みは、こうだ。
従来は、市区町村や警察署、運輸支局、都道府県税事務所へ何度も足を運び、手続きに必要な何通もの書類をやり取りしなければならない。購入者の大半は手間を嫌い、手続きを販売店に任せている。この代行手数料は、平均3万円前後とされる。
これがOSSを使うと、手続きのほとんどがオンライン化されているため、販売店側が顧客に代わって関係機関に出向く手間などが減る。この業務軽減に、代行手数料が安くなる理由がある。
池田さんは「税金などは車ごとに決まっていて節約できません。購入総額からみればわずかですが、費用を少しでも節約したかったので、OSSの手続きに必要な住基カードをわざわざ事前に取得しました」と話す。
スピーディー納車
トヨタ東京カローラはOSSを利用して新車を購入する顧客に対し、書庫証明と検査・登録にかかわる代行手数料を従来の手続きより約5900円引き下げた。ホンダクリオ愛知も、約1万2000円安く設定している。ホンダクリオ愛知では「代行手数料の値下げが成約の決め手になるケースもあり、OSSを導入していない他社と差別化が図れる」という。
OSSの利点は他にもある。日本自動車販売協会連合会(自販連)によると、従来は4、5日かかる手続き期間が早ければ2日で済む。また、顧客の印鑑証明など重要書類を預かる必要がなくなるため、「個人情報の保護にもつながり、販売店の信頼性を上げる手段として有効」(トヨタ東京カローラ)という。
OSS導入の有無は販売店によって異なる。導入している場合、おおむね車庫証明と検査・登録にかかわる代行手数料を値下げしているものの、その額には差もある。新車の購入を検討している人は、目当ての販売店に確認してみるといい。
一方、一連の手続きをすべて自分で行えば代行手数料をまるまる節約することができる。ただ、パソコン以外にも専用機器を用意しなければならないなど注意が必要だ。
低い認知度、登録台数わずか0.3%
自販連はOSSの積極的な導入を加盟各社に働きかけている。しかし、購入者の関心は低い。
OSSは現在、東京、神奈川、大阪、愛知、埼玉、静岡の6都府県で、軽自動車や一部輸入車などを除き適用されている。ところが、自販連によると、対象地域では開始から今年8月末までに新規登録された乗用車が約73万3000台あるものの、OSSによる登録は2100台で、0・3%にも満たない。
この背景には、住基カードの普及率の低さがある。OSSを利用するには公的個人認証サービスの電子証明書が入った住基カードの取得が必要。ところが、総務省によると、住基カードの発行数は平成17年度末現在、全国で91万枚(うち電子証明は16万枚)で、普及率は0・7%にすぎない。
OSSは政府が進める行政手続きのIT(情報技術)化の一環。ただ、「旅券(パスポート)電子申請システム」の場合、システム維持に多額の費用がかかる半面、利用者が少ないため、外務省が今月を最後に運用停止を決めている。ある販売会社幹部は「消費者への宣伝不足もOSSがなかなか利用されない原因。旅券の二の舞にならなければよいが…」と不安もにじませる。
一方、OSSを所管する国土交通省では、20年までに全国運用を目指している。また、新車登録以外に、継続検査や移転変更登録、中古登録、廃車手続きなどにも拡大させることにより、利用増につなげたい考えだ。