香りを楽しむことを目的に、趣味として広がりを見せていたアロマテラピー。最近、環境教育の視点や薬理効果への関心から、保育園や病院などが取り入れる動きが出始めている。自然志向の高まりとともに注目を集めそうだ。
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園庭でハーブに触れる園児たち=東京都品川区の中延保育園 |
育てて使う
「いいにおいがするよー」。十数種類のハーブが色ずく花壇に、じょうろやスコップを持った子供が集まる。どの子も親指とひとさし指でハーブをつまみ、その指先を鼻に寄せ「くんくん」。ラベンダー、次にレモンバーム…。つまんではかぐ、を繰り返した。
東京・品川の区立中延保育園は昨年度から、環境教育の一環として、アロマテラピーを取り入れている。3、4、5歳児の保育室にアロマポットが置かれ、窓辺や壁には園庭育ちのハーブがぶら下がっている。
「製作の時間や先生の話を集中して聞いてほしい時間は、しゃきっとした香りのペパーミントなどを、午睡の時間には緊張をほぐすといわれるラベンダーの精油をアロマポットでたいています」とアロマテラピー担当の冨栄真弓保育士(37)。
園の玄関口には精油をしみこませた和紙を飾る。「夕方、仕事先から慌ただしくお迎えに来たお母さんが『先生、この香り、ホッとしますね』と、ここで一息つけるように」と谷民子園長。「早く早く」と子供をせかす母親が減ったと感じているという。
園児は、種をまき水をやって育てたハーブの実りが、生活の役に立っていることも学ぶ。「何でも簡単に手に入る時代だからこそ、タネから育てて利用する、という体験が大切」と谷園長。
子供たちは外遊びから帰ると、自分たちが摘んだペパーミントを煮出したぬるま湯で足湯をし、レモンバームやローズゼラニウムを練り込んだ手作りせっけんで手を洗う。手作りハーブティーは飲んだり、布を染めたりするのに使う。
冨栄さんは「子供たちはハーブの香りが大好き。『紙飛行機につけて飛ばせばいい香りが広がるかも』『うちわにつけてみよう』とか、『飼育しているカタツムリが食べたら、うんちがいいにおいになるかも』などと、自分たちのアイデアをどんどん試しています」と、その教育的効果を語った。
心の問題に
医療の分野でも、薬理効果に注目し、治療やその補助としてアロマテラピーを取り入れる病院が出てきた。
東京女子医科大学附属青山自然医療研究所クリニック(東京)は平成15年の開院以来、漢方や、はり・きゅうとともにアロマテラピーを取り入れ、治療を行ってきた。
ハーブの精油が持つ薬理効果に着目し、患者の悩みや病状を医師が数十分間、診断(カウンセリング)したうえで、アロマテラピーを学んだ担当看護師が症状改善に役立つアロマオイルを調合、それを使って上半身を中心にボディーワーク(手を使って筋肉をほぐす療法)を施す。
「アロマテラピーを希望するのは30〜50代の女性が中心。自律神経失調から起こる冷えや疲労、イライラ、肩こりなど病気とはいえない悩みを抱えた人や、末期がんの苦痛を緩和したいと望む患者らです」と川嶋朗所長。吸香し、体の緊張を取ることでリラックスを促すと、患者の不調につながっていた心的な問題点にたどりつくこともあるという。
「顔面のけいれんを訴えてきた女性が、アロマテラピーを活用して治療を重ね対話するうち、家族関係の問題で悩んでいたことに気づいたケースもあった」と川嶋所長。
また、聖マリアンナ医科大学病院(神奈川)産婦人科の「アゼリア(更年期)外来」では、更年期の症状に悩む女性患者のうち、希望者にアロマセラピストによるケアを行っている。「不定愁訴の患者さんたちにリラックスしてもらおうと、1つの提案として取り入れてみた」と同外来の代田琢彦医師は話している。
「相補・代替医療」に関心
医療分野でアロマテラピーを取り入れる動きが始まった背景には、病気になってから治療をする西洋医学を補完するものとして、日常的に疲労やストレスを軽減し、病気予防や治療に用いられる民間療法や伝統医学などの「相補・代替医療」への関心が高まっていることがあるようだ。
アロマテラピーに詳しいグリーンフラスコ研究所の村上志緒・主任リサーチャーは「ストレスから来る心身症やホルモンバランスの乱れが蔓延(まんえん)するとともに、医学界において伝統的な医療として根付いてきたものに対する見直しが進んだ。同時に人々の健康意識も高まってきた」と指摘。疾病へのアプローチが治療から予防へとシフトするなか、「アロマテラピーの効用は今後一層注目を集めそうだ」としている。