能や歌舞伎といった古典芸能を敬遠している人も劇場に呼び込もうという動きが活発になっている。客席に個人用字幕を導入したり、舞台の裏側を見せるツアーを企画したり…。固定ファン以外の開拓を目指した新たなチャレンジで“復活”なるか−。
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11月から、客席に日本初の個人用字幕システムを導入する国立能楽堂=東京都新宿区 |
11月から字幕システムを導入するのは、国立能楽堂(東京都新宿区)。約600席の客席ごとに見られるモニターを設置。難解な謡(うたい)の言葉や解説が日本語と英語で表示できるようにした。
「初心者や外国人にもより深く能、狂言を理解してもらいたかった」と神永靖彦営業課長。能楽師らから反対の声はないが、「観客がモニターばかりを見て、舞台に集中できなくなるのでは」(能楽関係者)と心配する声もある。静かな能の世界に一石を投じる試みの評価はこれからだ。
一方、横浜能楽堂(横浜市西区)は平成8年の開場以来、休演日に舞台の裏側を見せるバックステージ・ツアーを行っている。10人以上の団体が対象で、楽屋や鏡の間などを解説しながら紹介するもので、この10年で約250組が参加した。
国立劇場(東京都千代田区)も昨年10月、同様のツアーを実施。定員の7倍以上の応募が集まるほどの反響の大きさで、同劇場の五十嵐晃宣伝課長は「(せりを動かすなど)生きている舞台が見せられ、参加者にも好評だった」と話す。
ただ、国立劇場や歌舞伎座(東京都中央区)などは公演の稼働率も高いため、ツアーを頻繁に企画するのは難しいのが現状だという。一方で「もう1回実施してほしい」という声は多く、関係者は「新たなファンを獲得するため、こうした要望に応えたい」と話す。
舞台に足を運べない地方の人にもファンを増やそうというのが、歌舞伎の名舞台を映画に仕立てる「シネマ歌舞伎」。松竹が3年前から始め、低料金(1000円〜)もあって地方での歌舞伎人気に一役買っている。
「(シネマ歌舞伎は)クローズアップも迫力があり、最新の音響処理で劇場の後ろの方で聞くよりもせりふもよく理解できる」と松竹演劇事業部の土田真樹プロデューサー。昨年はニューヨーク映画祭に招待され、海外でも評価は高いという。
こうした人気を受け、松竹はシネマ歌舞伎に力を入れることを決め、新作品の製作・配給を積極的に進める。土田プロデューサーは「将来は常設でシネマ歌舞伎を上映する場所が作れれば」と話している。