小売業や飲食店でのアルバイトといえば、若者の“指定席”だったが、ここに最近、中高年の姿が目立つようになってきた。景気の好転で若者が企業に正社員として採用されるようになり、アルバイトの人材として確保しにくくなったことから、店側がシニアを積極的に雇うようになったのだ。シニアを配置することで店を高齢者が来やすい雰囲気にし、消費を引き出す狙いもあるという。
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週3ペースでアルバイトをしている大竹友彦さん=さいたま市西区の「ローソン大宮高木店」(撮影・山口暢彦) |
雰囲気柔らかく
さいたま市に住む大竹友彦さん(69)は、昨年12月から近くのコンビニエンスストア「ローソン大宮高木店」でアルバイトをしている。新聞チラシの求人広告で60代でも働けることを知り応募。週3日、午後10時半から午前7時まで、若いアルバイトと組んで、2人で深夜勤務をしている。
昼間を避けたのは夕方から夜にかけ、経営する居酒屋を切り盛りしなければならないからだ。「最近、居酒屋の収入が減ってきた。それを補うためにアルバイトを始めた」と大竹さん。時給900円弱で一晩働けば7000円程度。そこそこの副収入だ。
「公共料金の収納代行など複雑なレジ操作もあり、初めは少し戸惑った」というが、接客が好きなので「いろいろな(職業や年代の)お客さんと会話をするのが楽しみ」と語る。
ローソンがシニアのアルバイト採用に力を入れ始めたのは昨年のこと。山形県や埼玉県の一部の店舗で実験的に始め、今年6月から全国規模に広げた。シニアアルバイトの採用を希望する店には「50歳からのアルバイト」と大きく書かれた募集ポスターを配布したという。
シニアアルバイトに渡される、仕事の手順を解説したガイドブックも、イラストを多用するなど、若い人向けよりも、さらにわかりやすい作りにしている。
シニアの採用に力を入れる理由について、広報担当の中村新(しん)さんは「少子化の影響で若手の労働力が減っているのを補うためと、店を高齢のお客さまにも入りやすい、柔らかい雰囲気に変えるため」と話す。
中村さんによると、シニアのアルバイトの良さは「社会常識があって接客態度がいい」「きれい好きで掃除や整理整頓がこまめ」といった点だという。
若者の手本に
全国の直営店約30店舗で60、70代のスタッフが60人ほど勤務しているファストフード「モスフードサービス」(東京)。広報室の松田由美子さんも同様の評価をする。
「(シニアは)社会常識が備わり、基本的な接客マナーを教育する必要がない。若いスタッフの手本にもなる」と話す。同社でも、各店でアルバイト募集年齢の上限廃止などを進めており、今後もシニア採用の門戸を拡大していく方針という。
中高年のアルバイト求人が多くなってきたのはここ1、2年のこと。フリーペーパー「ジョブアイデム」を発行する「アイデム」(東京)によると、同誌で中高年向けの求人特集を組むようになったのも2年ほど前からだという。
深夜営業のある外食産業の求人が目立つが、時間に比較的余裕のある定年退職したシニアにとって、賃金を通常の25%以上割り増しにするよう定められている深夜労働は収入面で魅力的という。
「景気の回復で企業が正社員採用を復活させつつあり、若者がそちらに流れている。少子化で、若者そのものの数も減っており、求人側はシニアを求めざるをえないのではないか」と同社。経済や雇用の情勢が変わらない限り、この傾向は続くとみている。
60歳以上、3年間で30万人増
総務省の労働力調査をみると、パート・アルバイトに携わる若年層は減少傾向にあるものの、対照的にシニアは年々増えていることが分かる。
調査によると、60歳以上のパート・アルバイト人口は、平成14年には約125万人だったが、17年には約155万人に増加。パート・アルバイト人口全体に占める割合をみても、14年の約11・8%から、17年には約13・8%に拡大している。
一方、15〜24歳のパート・アルバイト人口は、14年は約222万人だったが17年には約210万人に。全体に占める割合も21・0%から18・7%に縮小している。