中高年男性の“フレグランス(芳香性化粧品)熱”が高まっている。百貨店の化粧品売り場は男性客の増加により、売り上げは好調だ。国の旗振りで広まった夏の軽装運動「クールビズ」をきっかけに、外見的なおしゃれに目覚めた世のオヤジたち。「せっかくの着こなしも、汗くさかったり、『オジサン臭』がしたりしては、台無し」と、次なるおしゃれ道具を香りに求め始めているようで…。
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中高年男性にも垣根がなくなりつつある化粧品売り場=東京都豊島区の西武百貨店池袋本店(撮影・大西正純) |
取引先に行く途中
「ご職業は?」「お使いになるのは仕事で、それとも休日に?」
西武百貨店池袋本店の1階化粧品売り場にあるフレグランスコーナー。スタッフで、日本フレグランス協会が認定する「フレグランス・セールス・スペシャリスト」の福永智子さんは、「フレグランス初心者」の中高年男性にそう問いかける。
コーナーには、女性向けの香水などに交じって、男性向けやユニセックス(男女兼用)の商品が並ぶ。「購入客の10人に3人は男性。中でも40、50代以上の方が増えています」と福永さん。取引先に向かう途中、汗だくで立ち寄って購入していくサラリーマンもいるという。
同店では、フレグランスを購入する客に占める男性の割合が、ここ1年で倍増し、4割に伸びた。担当者は「クールビズやウォームビズで、“おしゃれの関門”を通り抜けた中高年層の購買意欲が高い。購入目的は、自分を演出するオシャレ派と、加齢臭を気にする実用派に分かれている」と話す。
着替え感覚でも
伊勢丹新宿本店メンズ館でも、男性向けフレグランスの売り上げは前年比2割増と、大きく伸びている。理由は、やはり中高年層へのフレグランスの広がりだ。
気分や洋服、場所に合わせて香りを着替える習慣は従来、女性や若い男性のものだった。ところが、「香水などをつけるという行為に、女性っぽさや照れを感じていた中高年男性が、身だしなみを気にするようになり、抵抗感が薄れてきている」と担当者。
化粧品メーカーにとっても、男性向けの香りは見過ごせない要素となっている。資生堂によると、スキンケアなどの化粧品を月3000円以上購入する男性はフレグランスへのこだわりも強く、所有率は46%で、平均の2倍以上という。
同社では「男性にはこれまで、化粧品の残り香を良しとしない傾向があったが、香りがプラスに受け止められる時代になった」としている。
化粧品に回帰
化粧品市場に占めるフレグランスの割合は決して大きくはない。ましてや男性市場はわずかだ。しかし、『最新版 香水の教科書』の著者で男性香水コンサルタントの榎本雄作さんは、「中高年男性のフレグランス需要は今後、ますます伸びる」とみる。
60歳前後の男性は20歳のころに空前のブームを巻き起こした資生堂の「MG5」など最先端の男性化粧品に触れている。榎本さんは「かつてはおしゃれに気を使ったが、結婚して化粧品への関心が薄れていた世代がクールビズなどを経験し、化粧品市場に戻ってきている」と話す。
日本フレグランス協会事務局長の吉岡康子さんも「高齢化社会の中で、香水などは死ぬまで自己表現の道具になり得る」としたうえで、「若い男性の市場は出来上がったが、中高年層に合う香りはまだ少ない。大人の男性に向けた、さわやかだが、どこか動物的な香りが漂うようなセクシーなフレグランスがもっとあってもいい」と話している。
体内から香り発散させるガムも
男性の香りに対する愛着は、食品の世界にも広がっている。カネボウフーズが7月に全国発売した「オトコ香る。」は、かむと体内からバラの香りが発散されるという「男性向けのフレグランスガム」(同社)。奇抜なコンセプトだが、あまりの人気に生産が追いつかず、販売休止の状態に追い込まれている。
香りのメカニズムは、こう。ガムに配合されたバラに含まれる香り成分のゲラニオールが口の中や腸管から吸収され、皮膚の汗腺から汗とともに発散される。甘い香りが体内から発散する「女性向け」(同社)のガム、ソフトキャンディ「フンワリカ」を先駆けて発売したところ、男性の反響が大きかったことから、商品化された。同社では「男性のおしゃれ感覚は想像以上。男性は香りに対して敏感で、関心も高い」と、うれしい悲鳴をあげている。