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心に傷 それでも生き抜く人間の姿
「風の墓碑銘」 乃南アサに聞く
  東京朝刊 by 丸橋茂幸
東京の下町を舞台にした乃南アサさん(46)のミステリー『風の墓碑銘』(新潮社)。24年前の殺人事件が現在と交錯する意外な結末も魅力だが、心に傷を負った登場人物たちが懸命に生きる姿が胸を打つ。乃南さん自身、「この作品に全力を注いだので、今は頭が空っぽ」と語る力作だ。

「私はいつも血の通った人間を描きたいと思っています」と語る乃南アサさん

墨田区の家屋解体現場から3人の白骨遺体が見つかった事件を、所轄署勤務の音道貴子とベテラン滝沢刑事が追う。その捜査の過程で、さまざまな過去を持つ人物が登場する。ひきこもりの今川良、両親を殺害された過去を持つヘルパーの長尾広士、義父から性的暴行を受けたヘルパーの岩松みう…。

「彼らはちょっと見た目は問題がありそうだけど、根は悪くない子たち。最近、電車の中でピアスをしてズボンを腰までズリ下げた青年が私の重い荷物を棚に置いてくれたんですよ。人間の見た目って、あまり関係ないかも」

また今回、認知症や公訴時効の延長、ひきこもり…といった時代のキーワードが随所に盛り込まれ、ぐいぐいと読者を物語に引き込んでいく。

時代感覚に敏感なミステリー作家はどう現代を見ているのだろうか。

「私がデビューした18年前にはオレオレ詐欺なんてなかった。毎日親子が会話をしていたらひっかからないのにって。携帯やインターネットなど技術は高度化しているけど、人間は退化しているんじゃないかな」

主人公の貴子と滝沢は直木賞受賞作『凍える牙』以来のコンビ。実直に、直球勝負で事件に立ち向かう貴子、ベテランらしい駆け引きで捜査を進める滝沢。お互いを認め合いながらも素直になれない、微妙な温度感もいい。また小説からは、大正、昭和初期の長屋や路地、町工場が多く残る墨田区の町のにおいが心地よく伝わってくる。

事件は意外な結末を見せ、読者は人間の欲望に一抹の寂しさを覚えるかもしれない。しかし、脇役たちの成長が救いとなって、読後にはさわやかな風が吹く。()



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