試供品ビジネスが、にぎわっている。試供品は新商品の売り込みに欠かせない。とはいえ、むやみに配っては、ゴミ箱行きになるリスクが高い。使った人の反応を無駄なく吸い上げ、なおかつ良い評判を口コミで広めてもらいたい企業。一方、購入前に商品を無料で試したい消費者。両者を仲介する試供品ビジネスには、「ただより高いものはない」という言葉は当てはまらないようだ。
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市販されている化粧品のテスターがずらりと並ぶ「マキアサロン」では、無料で化粧を試すことができる=東京都中央区(撮影・頼永博朗) |
疑似通貨でゲーム感覚
今月6日、東京都内のホテルに主婦ら500人が集まった。用意されたテーブルやいすの上には化粧品や飲料、菓子など33社から提供された約40点、約3万円相当の試供品が並ぶ。会場では、企業の担当者が次々に自慢の新商品についてプレゼンテーションを行った。
開催したのは、試供品専門のインターネットサイト「サンプル百貨店」を昨年8月に開設したルーク19(東京)。サイトでは、会員になると試供品と交換できる専用の「通貨(サンプラー)」がもらえる。試供品の感想を書いたり知人を紹介したりすると通貨が増える。企業は、原則的に年間100万円か、1カ月10万円の出品料を支払い、代わりに商品に対する利用者の感想を受け取る。会員は15万人、出品企業は累計250社を超える。
会員向けのプレゼンテーションは年に数回開催。大手食品会社の担当者は「消費者に直接、商品の特徴を伝えられ、女性の口コミが期待できる」。参加した横浜市の女性会員(37)は「日ごろ買わないものを試すことができ、『食わず嫌い』に気付くことがあります」と言う。
ルーク19社長の渡辺明日香さんは「試供品を受け身でもらうのではなく、自分から働きかける仕組みが、参加する会員にも企業にも支持されている」と話す。
美容誌が専用サロン
東京・銀座の「マキアサロン」。美しさに磨きをかけたい女性たちが鏡に向かい化粧を楽しんでいる。ここは集英社が一昨年9月、美容誌「マキア」の創刊と同時に始めた、同誌で紹介した化粧品を無料で試すことができる空間だ。
利用者は同誌の読者とその同伴者で、予約が必要。品ぞろえは同誌の発行に合わせ月ごとに変わるが、常に20社前後の130種類が並ぶ。メーク落としや化粧水も用意され、ほとんどの人が塗っては落としながら、制限時間の1時間半をめいっぱい使っていく。
利用者の34%は試した商品を後日、購入しているという。初めて訪れたという東京都内の主婦(32)は「買っても気に入らず、使わないままという化粧品が結構あります。百貨店の化粧品売り場は敷居が高いですが、(ここなら)思う存分、事前に試せるので失敗する心配がなく助かります」と話す。
集英社広告部の小林桂さんは「化粧品メーカーからの広告収入により、運営費の採算は見合う。サロンの人気もあって、後発の美容誌だが、ライバル誌と互角に勝負ができている」と言う。
シビアな目へ階級分け
女性向け商品のマーケティング調査を会員対象に行っているのが、平成14年設立のヒメアンドカンパニー(東京)。昨夏には、企業から出品料を取って提供を受けた試供品や市販商品を試すことができる「サロン」(入室1回300円)を東京・北青山に開いた。
ユニークなのは、会員を「お姫様」にたとえ、組織を「ヒメクラブ」と銘打ち、会員を5つの階級に分けている点。商品を使った感想などをネットに書き込むことでポイントを獲得できるが、「単に書き込むだけでは上の階級には行けず、目利きとして他の会員に認められなければなりません」と社長の平舘美木さん。
会員は4100人。このうち、サロンに平日、入室できる階級の女性は約1割の400人足らず。階級の導入により、「やらせが利かない商品評価ができるほか、最新情報を収集し、自らトレンド情報を発信したいという女性を集められる」と平舘さん。また、企業が嫌う無料の商品をもらいたいだけの消費者を排除することにも役立っているという。