「大切な愛車をいつも眺めながら暮らしたい」。居住空間と車庫(ガレージ)を屋内で行き来できる「ビルトインガレージ」が、家造りや家選びの際、重視されるようになってきている。車の買い替えサイクルが伸び、1台を大切に乗り続ける時代。防犯対策や汚れにくさといった実用面での利点に加え、かつては一部のマニアに限られていた「車もインテリア」「車も家族の一員」といった考え方が、徐々に“市民権”を得てきたようだ。
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部屋の主役は愛車? 居住空間にガレージが溶け込んでいる「ライダーズマンション」=東京都練馬区 |
風呂は“絶景”
神奈川県の会社員、須原資博(ただひろ)さん(33)は昨年11月、自宅を新築した際、愛車の昭和48年型日産サニーを置くガレージを屋内に設けた。休日は、ここで自ら工具を使って車を整備する。木を多く使い、室内空間と一体感のあるデザインが自慢だ。
ユニークなのは、風呂場から愛車を眺められる造り。「リビングから車を眺められるようにしたかったのですが、設計上、ガレージの奥が風呂場になってしまい、『いっそのこと』とガラス窓で仕切ってみました。(2人暮らしの)妻? もちろん理解を得ています」と満足げだ。
三和シヤッター工業の子会社、リビング百十番ドットコム(東京)は昨春から、「賃貸ガレージハウス」を展開している。物件は1階に乗用車2台分の駐車スペース、2階に16〜35平方メートルの居住空間を備えたアパート形式。すでに関東に5棟を建てた。予定物件も含め、200人が入居待ちという。
営業部長の松島茂さんは「当初は戸建て向けの事業だったが、資金に余裕がなく賃貸を希望する人が多いことが分かり、事業の主力を転換した。物件は駅から離れてはいるが、高速道路のインターチェンジや幹線道路が近く、車をよく利用する入居者には交通至便がよく、地主は土地を有効活用できる」と話す。
インターネットを使い、「ガレージハウス」に関心のある人をつなぐ「ジャパンガレージクラブ」も運営しており、来年は月1棟ペースの完成を目指す。
盗難対策に
今年5月、東京都練馬区に完成したのは、その名も「ライダーズマンション」。7階建ての1、2階にはオートバイ店。3階以上に入る全40戸は、居住空間とガラス戸で仕切った専用ガレージが完備されている。
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愛車と“裸の付き合い”ができるマイホーム=神奈川県内 |
運営するのは、オートバイ販売グループのレッドバロン(愛知)。同社では「盗難の不安や駐車場不足の問題に悩む所有者が都会には多い」とマンション事業に乗り出した。今後、都内に20棟のほか、全国主要都市にも展開する計画という。
「ガレージのある生活」を提案するイベントもにぎわう。4月に東京ビッグサイトで開催された「ガレージ&ハウジングEXPO」には約100社が出展。事務局は、来年5月の開催時には出展数が増えると見込む。
ネコ・パブリッシング(東京)では、平成9年から発行する専門誌『ガレージライフ』(季刊)が3万部と好評だ。ビルトインガレージは居住空間の一部を車に与えるという一見ぜいたくな造りだが、同誌プロデューサーの永山育生さんは「ガレージの存在が『あればいい』から、住む人が個性を発揮する空間に変わりつつあり、今や男性の肩身の狭い趣味ではなく、家族に溶け込み始めているのではないか」と話している。