今、運動会が注目されている。社内運動会を復活させる企業が出始めているほか、外国人との交流を図る場として地域運動会を実施する団体も登場している。その狙いは企業や地域で失われつつある“一体感”の獲得だ。
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昨年のユニ・チャームプロダクツの運動会。社員や家族ら約1200人が参加した(撮影・森浩) |
騎馬戦で一体感
電子部品メーカーのアルプス電気(東京)は、今月末に「アルプスワールド」と題した社内運動会を実施する。世界にちらばる社員らが一堂に会し、騎馬戦やリレー、ムカデ競争などに熱い火花を散らす、まさに“世界規模”の社内運動会だ。
「運営も外部に頼まず、社内でやることで一体感を生み出そうとしています」と語るのは、同社人材育成グループの稲葉幹和さん。同社では、20年以上にわたり運動会を実施していたが、平成4年にいったん休止した。早期退職制度を導入するなど、不況の影響を受け、経費削減が優先された結果だった。だがここ数年、社内から「組織の一体感を高める行事がほしい」という要望があがってきたことを受け、再開が決まった。
千葉県の幕張メッセを借り切り、関連企業を含め世界各国の約50現地法人から3000人の参加を見込む。予算規模は数億円という。「運動会など社内イベントは時代遅れとされてきた時期もあったが、社としての結束を得るための重要なイベントなのではないか」と稲葉さんは語る。
ユニ・チャームプロダクツ(愛媛)も2年前、休止していた運動会を復活させた。グループ企業の社員や家族が参加し、パン食い競争や綱引きに汗を流す。毎年1000人を超える社員や家族が集まり、今年も1400人の参加を見込む。ユニ・チャーム広報では「運動会を通じ、部門間の壁を壊すことができるのではないかと考えた」と、その狙いを話す。
玉入れで国際交流
「地域の一体感を得るのに、効果的と考えました」−。名古屋市では来月、名古屋商工会議所が旗振り役となった“地域運動会”が開催される。
昨年スタートした「NAGOYA UNDOUKAI」(名古屋運動会)は、玉入れや綱引きなど日本の伝統的な運動会の競技で構成されている。参加対象は名古屋市近郊に住む日本人と外国人だ。
同会議所が製造業を中心に働く外国人との交流促進を考えた際、運動会開催が浮上した。「あらかじめ練習しなくても、玉入れや綱引きは初めての外国人でもすぐに参加できる。しかも複数で参加できるので一体感につながる」と、同会議所では伝統的な運動会競技のメリットを語る。
昨秋に第1回大会を開いたが、地元企業に勤めるアメリカ人やブラジル人など24カ国から計500人が参加した。今年も同程度の参加を見込んでいるという。
京都教育大学の杉本厚夫教授(スポーツ社会学)は「今、『みんなで一つのことをする』という機会が少なくなっていて、地域や会社では人間関係を醸成しにくくなっている。スポーツは高いコミュニケーション効果があり、運動会開催は有効なのではないか」と話している。
若手社員の意識に変化
企業で運動会が復活する背景には、若手社員の“意識の変化”もあるようだ。
社会経済生産性本部が実施している「新入社員の意識調査」によると、「会社の親睦(しんぼく)行事」について、「できれば参加したくない」とする回答は徐々に減少し、今年度は17%と、平成7年度(29%)と比べ12ポイント減少、調査を開始した2年度以来、最も低い数値となった。
また、担当したい仕事について、「個人の努力が直接成果に結びつく職場」より、「チームを組んで成果を分かち合える職場」を希望する回答が増加を続け、ほぼ8割に達し、調査開始以来、最も高い水準に。一体感や団結を求める傾向が強まっているといえる。