健康志向の高まりや日本食ブームを反映し、みその輸出が増えている。国内の製造業者は英文ポスターや海外向けレシピを用意してPRに本腰を入れ、ブームを巻き起こしたみそかつ店は初の海外進出をもくろむ。同じ大豆製の調味料として一足早く“市民権”を得たしょうゆに負けじと「MISO」の売り込み作戦が熱を帯びてきた。
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海外PR用の英文ポスターとパンフレットの試作品。年内には完成させる予定だ(撮影・海老沢類) |
名古屋発NY行き?
東京・銀座に進出し、「名古屋めし」ブームの主役を担ったみそかつの「矢場とん」(名古屋市)。鈴木孝幸社長は現在、海外初出店に向けて準備を進めている。
候補地はニューヨークかパリ。来春までにどちらかに絞り込み、創業60年の節目を迎える来年中に出店する計画という。
決断を後押ししたのは、昨年の愛知万博(愛・地球博)を訪れた外国人観光客たちの好反応だ。今までみそを食べる習慣がなかった外国人が大挙して名古屋市内の店舗を訪れ、みそかつの味を絶賛した。万博会場で働く外国人スタッフの中には、店に通って海外出店を懇願する人もいたという。
海外1号店で使う豚肉は現地で調達するが、みそは地元・愛知から船便で運ぶ。鈴木社長は「3年以上寝かせた天然醸造の豆みそは、うちのみそかつの命。名古屋の味であるみそかつの輪を海外にも広げる」と意気込んでいる。
西洋風アレンジ
みそ製造業者も海外駐在員を増員するなど、売り込みに力を入れている。
製造業者1400社が加盟する業界団体の広報機関「みそ健康づくり委員会」は、現地での販売促進に利用する英文パンフレットとポスターの製作を急いでいる。パンフレットには、みその歴史や製造法、健康効果を記載する。チキンと野菜のミソスープや、みそ味のクラムチャウダー、トマトソースにみそを合わせたミートソースなど、西洋風にアレンジしたみそのメニューも紹介する予定だ。
「日本の伝統的な食べ方だけではなく、海外の人が食べやすい料理法を提案しないと、食習慣として浸透しない」と高梨修委員長。来年には、アメリカのシェフや流通業者に、みその印象や効果的な使い方などについて聞き取り調査をし、海外での営業活動に役立てる考えだ。
アピール元年
東京税関によると、昨年のみその輸出量は7755トンで、過去最高を記録した。国別では、アメリカが41%を占めてトップ。以下、韓国、台湾、カナダと続く。低迷する国内需要とは対照的に、ここ20年間で約4倍に増えた。
輸出が伸びている背景には、海外での健康志向の高まりや日本食ブームがある。がん予防や老化抑制に効果があるとされるみそが健康食品として注目を集め、日本食レストランなどで食べる外国人が増えているという。
ただ、最大の輸出相手国・アメリカでも「発酵食品独特の臭いや見た目から敬遠されがち。日本食レストランではよく出されるが、一般家庭の食卓に上がることはほとんどない」(アメリカ大豆協会東京事務所)。同じ大豆製の調味料である、しょうゆに比べて知名度も低いが、それ故に今後、海外でみその消費量が伸びる可能性を秘めている。
高梨委員長は「みそ業界にとって今年は海外アピール元年。健康志向を追い風に、海外の家庭でも食べてもらえるように、みその魅力を訴えたい」と話している。