携帯電話の高機能化で、携帯電話各社が法人需要の開拓に力を入れ始めた。関連ソフトウエア会社と協力して企業の業務に便利なソフトを開発し、提案していくビジネスを活発化。電話番号を変更せずに携帯電話会社を替えられる「番号ポータビリティー」が始まる今月24日以降、ビジネスの取り合いになりそうだという。
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法人向けに開発された携帯電話の周辺機器。左から携帯電話、超小型プリンタ、検針などを読み取るRFIDリーダーライダー、手前はバーコードリーダー(撮影・茂谷知己) |
もともと法人相手のビジネスは、NTTドコモが先行していた。平成11年に法人営業部を立ち上げ、東京ガス、日本航空インターナショナル、小田急箱根高速バスなどをはじめ、地方公共団体多数と契約している。携帯電話を利用したチケット予約や出退勤管理など、ビジネスは幅広い。
KDDI(au)も数年前に法人ビジネスに参入。今や数百社と取引するまでに事業を拡大した。ソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)も、傘下の日本テレコムとモバイル事業本部を7月に立ち上げ、法人開拓に本腰を入れ始めた。
周辺機器のメーカーも、携帯電話の新たな活用法による市場拡大に着目し、機器の開発に取り組んでいる。
ブラザー工業は、A7判のモバイル・プリンターを商品化。手軽に入れられるカット紙が使えるので、その場で簡単に領収書などの印刷が可能になった。
商品のバーコードを読み取るアイメックスのバーコードリーダーや、検針器などの数字を読み取れるウェルキャットのRFIDリーダーライダーといった機器と、ブルートゥースという近距離用無線内蔵の携帯電話とをつなげば、本社との連絡により瞬時にデータを処理。電気、ガス、水道の使用量や料金を印刷して利用者の家に置いてくることができる。
すでにヤマト運輸が配送荷物がどこにあるかを検索できるシステムを導入したり、昭和シェル石油がガソリンスタンドから問い合わせの多いタンクローリーの正確な到着時間を知らせるシステムを導入するなど、法人向けの携帯サービスは進化している。
システム開発の難点だったソフト作りの複雑さも解消してきている。KDDIでは簡略化したケータイ・カスタム・キットを開発。ボタンひとつで会社に写真を送り報告する業務や、GPSと連動して社員がどこにいるかを調べることができる勤怠システムなどの指令が、通常の半分の指令文でできるようになった。ソフトウエア会社の手間が大幅に省け、コストもかなり減少できるという。
同社モバイルソリューション1部統括グループの保科隆課長補佐は、「ソフトウエアの30社に実験的に使ってもらっているが、すでに3、4社は法人契約できそうな段階。このシステムだと、これまでに比べて費用もあまりかからないので、中小企業の開拓を狙う。番号ポータビリティー実施以降に(携帯電話の契約会社変更も狙って)勝負をかけたい」という。
一方、NTTドコモも、法人向けIP(インターネット・プロトコル)電話サービスを11月1日に始めると発表するなど、ライバルを迎え撃つ準備を整えている。
日本の携帯電話の契約数は9000万台で、すでに飽和状態といわれる。そのうち、法人向け市場は1000万台。市場拡大を促すのか、それとも既契約者の取り合いになるのか。予想のつかない中で、法人向けサービスの競争はますます激しくなる。