激務を終えたサラリーマンらの“オアシス”ともいわれた居酒屋。団塊の世代が定年を迎え始める2007年を控え、危機感が漂っている。企業戦士たちが居酒屋からも大量に“卒業”する可能性があるからだ。業界では、定年後も足を運んでもらうため、“引き留め作戦”を繰り広げている。
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女性をそろえて、「くつろげる」を第一にし、小料理店の雰囲気も漂う「手作り居酒屋 かっぽうぎ」=大阪市(撮影・森浩) |
割烹着がお出迎え
「はい、ビールどうぞ」−。割烹(かっぽう)着姿の女性店員が、優しく声をかける。うれしそうにほほえみ返すのは、中高年男性だ。
フジオフードシステム(大阪)が平成15年から展開する「手作り居酒屋 かっぽうぎ」では、店を取り仕切る女将以下、従業員はすべて女性だ。中でも40代、50代の“おばちゃん”を多くそろえる。広報担当の仁科加奈子さんはその意図を「気兼ねなく会話ができる。団塊の世代がくつろげる環境にした」と語る。
また、会社の同僚と帰りに一杯という光景が減っていることにも対応し、おつまみの価格帯を280〜380円程度に抑えた。1人でふらっと立ち寄りやすくするためだ。仁科さんは「かつてのかき入れ時は給料日後だったが、給料日に限らず来店が多くなってきている」と、“団塊定年後”へも手応えを語る。
実際、リピート率は同種の店舗より高い。全50店を展開するが、1店舗あたりの売り上げは月平均600万円と、予想を超える数字という。
おでんをばら売り
メニューや味も“団塊好み”の品ぞろえに力を注ぐ。
大手チェーンのつぼ八(東京)では、今月からの新メニューで対応を始めた。例えば、「エビ入りさつま揚げ」といったこれまでの常識から見るとやや“渋め”の品を増やし、シニア層への訴求を図っている。「宴会でも肉より魚というシニアの方は多いので、シニア向けのメニューも用意した」(同社)
さらに地味ながらも成果を上げている取り組みがある。
コロワイド(神奈川)が展開する和食居酒屋「三間堂」では4月から、おでんのばら売りを開始した。「ささいなことかもしれませんが、好評をいただいています」と、同社広報課の大野郁子さん。これまで盛り合わせだけだったが、「大根」「たまご」などバラにして売ることで、「少しだけ食べたい」という胃袋の小さくなった団塊の世代を取り込んだ。大野さんは「おでんに限らず、それ以外のメニューでも『少量化』の動きは強めている」と話す。
また、居酒屋チェーン店などを手がけるヴィア・ホールディングス(東京)では、団塊世代が「フォークの神様」とあがめる岡林信康さんと協力して、居酒屋「御歌(おか)囃子(ばやし)」を昨年立ち上げた。手作りのヘルシーなメニューで「団塊世代がくつろげる居酒屋」を目指している。
「居酒屋に飽きた」
外食産業総合調査研究センターの推計によると、居酒屋やビアホールの市場規模は平成4年の1兆6000億円をピークに縮小傾向にあり、16年は約1兆1200億円だった。
しかも、団塊の世代の居酒屋離れが著しい。飲食業などのマーケティングを手がけるリンク総研(東京)が1月に実施したアンケートによると、「居酒屋をほとんど利用しない」と回答したのは世代別に見ると、団塊の世代が46%と最も多くなった。理由として「料理がどこも同じ」「うるさすぎる」といった回答が上位を占めた。
同総研主任研究員の堀場久美子さんは、「一世を風靡(ふうび)した居酒屋チェーンは、飲酒量が多い団塊世代が牽引(けんいん)してきたが、すでに飽きを感じている」と分析。「そこでしか食べられないもの、そこでしか会えない人がいるといったキャラクター(個性)が際立つ店ならば、2007年以降も対応できるのではないか」と“生き残りの道”を予測している。
「ほぼ毎日」飲酒頻度もトップ
団塊の世代はやはり、「よくお酒を飲む世代」のようだ。 キリンお酒と生活文化研究所が先月まとめたアンケート(1万254人対象)によると、飲酒頻度は、20代では「週1〜2回」が35%で最も多いのに対し、団塊の世代を含む50代では「だいたい毎日」がほぼ半数に達した。20代で「ほぼ毎日」と回答したのは2割以下にとどまっている。1カ月の酒代を見ても、50代男性が2万8686円なのに対し、20代男性は1万9463円だった。